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固定残業代を手当で支給する際の注意点と1分単位の残業を主張する職員への対処法

始業時刻・終業時刻の意味を明らかにしておくことが必要
合同会社MASパートナーズ 代表社員 原 聡彦

【相談内容】

関東地方の内科クリニック開業10年目の院長より 「退職した職員より未払残業代を請求されました。毎月の給与で毎月10時間程度の残業代を職務手当込みで支給しておりましたが、口頭ではありますが労働基準監督署から 『これでは残業代を払ったとはいえない』 と言われました。また、当院の残業代は30分単位なのですが、当該スタッフは1分単位での残業代を請求してきています。今後のこともあるので対処方法を教えてください」 という相談を頂きました。

【回 答】

今回はクリニックでよく問題となる 「固定残業代を手当で支給する際の注意点」 と 「1分単位で給料を支払ってほしいという職員への対処法」 について解説いたします。

1.固定残業代を手当で支給する際の注意点
残業部分に応じた時間外割増賃金を毎月一定額支払う 「固定残業代」 としての業務手当について定めた就業規則、賃金規定などをよく拝見いたします。

労働基準法では、原則1週40時間、1日8時間を超えて職員に労働させることは許されず、超えた部分について超過時間数に応じて、通常の給料に加え0.25を乗じた 「割増賃金」 を支払わなければなりません(その他、 「時間外・休日労働に関する労使協定」 の締結・届出が必要)。
割増賃金不払いの防止、あるいは給与計算業務の効率化などを目的とした 「固定残業代」 を支給するクリニックが増えています。業務手当あるいは役職手当など、その名称はいろいろありますが、一定額の固定残業代を支給する場合、下記の事項がポイントとなります。
  1. 手当の中には割増賃金分が含まれることを就業規則・雇用契約書などで明記する
  2. 手当に含まれる割増賃金は「何時間分」で「何円」であるかを明記する

例えば、毎月10時間分の残業代を固定支給する場合には次の計算式によって算出された金額以上の手当とする必要があります。
<計算式>
  • (基本給+諸手当※)÷(1カ月の所定労働時間)・・・A(1時間あたり給与単価)
  • A×10時間(固定支給分)×1.25(法定割増)・・・B
  • 10時間分の固定残業代≧B
※ 上記の計算式の諸手当に家族手当、住宅手当、通勤手当、臨時に支払われる賃金は含めなくてもよいことになっています。

実態に合わせて残業時間を設定するとき、 「月100時間」 などあまりに長時間にするのは職員の不信感を生むほか、労働基準監督署から調査が入る可能性もあります。一般的には1カ月あたり10時間前後で設定することが多いです。
現在の給料を固定残業代方式に切り替えるときは、たいてい 「基本給」 が下がってしまうため、職員から強い反発が出やすいといえます。賃金設計から導入にかけて、逐次説明会を開催するなど院内での合意形成は必要不可欠です。

2.1分単位で給料を払ってほしい職員の対処法
タイムカードの打刻どおり、1分単位で給料を払ってほしいと請求してくる職員に対しては、どのように対応すべきでしょうか。
1分間単位で給料を支払うことは労働基準法上にも明記されておりますので、法律遵守で対応してもらうことが必要ですが、始業時刻・終業時刻の意味を明らかにしておくことでダラダラ勤務と不必要な残業を防ぐことができます。
出勤の際、タイムカードに打刻した時刻は 「出勤時刻」 であり、労働時間の開始点である 「始業時刻」 とは異なることについて理解してもらわなければなりません。就業規則、雇用契約書などで 「始業時刻とは業務を開始する時刻」 であることを定め、 「始業時刻に業務を開始できない場合は(院内に到着していたとしても)遅刻として取り扱う」 旨、定めることが必要です。
終業時刻についても同様です。 「終業時刻とは業務を終了する時刻」 であり、 「終業時刻の到来前に帰宅準備を開始する場合は早退として取り扱う」 こと、 「終業時刻を超えて業務を続けること(残業)はクリニックの許可を得たもの以外は認めない」 ことを定めておきましょう。
とにかくダラダラ仕事をさせないために就業規則、雇用契約書などに上記事項をきっちり明記しておきましょう。
シフト制など、院内で異なる始業・終業時刻が存在する場合は、すべてのパターンについて就業規則・労働契約書などに明記する必要があります。
また、クリニックの都合で始業・終業時刻を変更する可能性があることも明らかにしておきます。例えば下記のような文言を就業規則・雇用契約書に明記することをお勧めいたします。

【業務の都合その他やむを得ない事情により、始業及び終業の時刻並びに休憩時間を繰り上げ、または、繰り下げることがある。】
このような文言を明記することで柔軟な運用が可能となります。

昨今、インターネットなどで労働関連の法律知識を簡単に入手できるので職員の権利意識は高まっています。経営者である院長先生はビジネス上の契約書同様、 「言った・言わない」 のトラブルを防ぐために自院の就業規則・雇用契約書の見直しをお勧めいたします。


【2024. 10. 15 Vol.602 医業情報ダイジェスト】