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【続き】国民医療費の合成の誤謬(ごびゅう)

ミクロでは正しくてもマクロでは違うこと
株式会社MMオフィス 代表取締役 工藤 高

■ 国民医療費増大は医療機関人材確保に対する投資という視点

増大する国民医療費が保険財政をパンクさせるという 「医療費亡国論」 が世論として圧倒的に多い。亡国論では 「保険料負担の世代間格差」 という問題があげられる。医療保険は所得の高低で保険料が決定されるが、一般的には医療費が高い高齢者ほど所得が低い。現役世代の保険料で高齢者の医療をまかなっているのだが、高齢者が増加するほどに現役世代の負担が大きくなるので、不満が大きくなってくる。
国税や地方税の租税負担と、国民年金や健康保険の社会保険料などの社会保障負担の合計を国民所得で割って算出する 「国民負担率」 は、2006年の37%から2021年は48.1%となった。国民所得の5割は税金と社会保険料のため、 「中負担中福祉国家」 から 「高負担中福祉国家」 になりつつある。
企業の売上向上は雇用を促進し、経済成長のためになると社会から歓迎される。一方、医療・介護の従事者は900万人で労働人口の13.5%を占めており、その給与原資が診療報酬・介護報酬になるのだが、前述のように医療・介護費の成長はリスクとしてとらえられている。それは9割が税金と社会保険料から成り立っているからだ。
しかし、2024年改定における本体0.88%引上げは全産業の賃上げ見通し(厚生労働省予測3.95%)と比較すると明らかに足りない。これからの高齢者増加と現役世代の働き手不足を考えると、このままでは医療・介護業界を目指す若者が少なくなることは確実だ。すでに医療機関におけるノンライセンス職である 「看護補助者」  「調理補助者」 、そして 「4大新卒事務職員」 は、病院への応募者減少が顕著に表れている。国民医療費増大は 「コスト増」 ではなく、人材確保のための 「投資増」 であるという考えにしないと、医療・介護業界は、一般企業の好景気とはトレードオフの関係で優秀な人材確保がますます困難になっていくだろう。


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【2024. 10. 1 Vol.601 医業情報ダイジェスト】