病院

医療従事者の負担軽減、医師の働き方改革への取り組み動向と厳しい現実

職種別の有効求人倍率は?
株式会社メデュアクト  代表取締役 流石 学
次期改定の議論では、過去2回の改定と同様に、医療従事者の負担軽減、医師等の働き方改革の推進がテーマの1つとなっている。
令和4年度入院・外来医療等における実態調査によると、医師の負担軽減策として
  • 薬剤師による投薬に係る患者への説明(47%)
  • 薬剤師による患者の服薬状況、副作用等に関する情報収集と医師への情報提供(44%)
  • 医師事務作業補助者の外来への配置・増員(43%)
といった薬剤師、医師事務作業補助者の活用が実施の上位3項目となっている。その他の取り組み項目についても、他職種の活用、タスクシェア・シフトが挙げられている。

看護職員の業務負担軽減策を見ても、病棟クラークの配置、看護補助者の配置・業務分担・増員等や、入退院支援部門のスタッフとの業務分担、薬剤師の病棟配置、PT・OT・STとの業務分担等の他職種の配置やタスクシェア・タスクシフトが、「効果がある」と回答した上位項目になっている。

いずれにしても、業務負担を軽減するためには、他職種を活用することが有効ということだろう。しかし、問題はそんな簡単ではない。例えば、医師、看護師のタスクシェア・シフトの受け皿として共通するのが薬剤師である。しかし病院の薬剤師については、改定に向けた課題として「診療報酬で評価されている業務が実施できない理由として薬剤師が不足していることが多く挙げられており、このため必要な業務を十分実施することができない状況がある」と述べられており、多くの医療機関でそもそもの人数が不足している。

タスクシェア・シフトを推進しようとしても、シェア・シフトする相手がいなければどうしようもない。担い手不足もまた深刻な課題である。採用したくても、採用が進まないというのが多くの医療機関の実状ではないだろうか。

■職種別の有効求人倍率は?

医療職の労働市場はどうなっているのだろうか。
今回は職業安定業務統計より、医療職の2012年度以降の有効求人倍率(パートを除く常用)を図にまとめた。



職業分類は「医師、歯科医師、獣医師、薬剤師」「保健師、助産師、看護師」はそのままだが、それ以外の職業分類に該当する職業は次の通りとなる。

「医療技術者」:診療放射線技師、臨床工学技士、臨床検査技師、理学療法士、作業療法士、視能訓練士、言語聴覚士、歯科衛生士、歯科技工士
「その他の保健医療従事者」:栄養士、管理栄養士、あん摩マッサージ指圧師等、柔道整復師、他に分類されない保健医療
「保健医療サービス職業従事者」:看護助手、歯科助手、その他の保健医療サービス

「医師、歯科医師、獣医師、薬剤師」は4職種が対象になるが、大半が薬剤師の求人となっているため、実質的に薬剤師の有効求人倍率に近い数字とみていいだろう。その薬剤師においても、かつては有効求人倍率が7~8倍を超える採用困難職種であったが、この10年で状況は様変わりし、以前と比較してかなり採用しやすくなった(それでもまだ3倍前後あるが)。しかしこれは保険薬局やドラッグストア等も含めた数字である。病院から保険薬局への転職は多くあっても、保険薬局から病院への転職は一般的に門戸は狭い。都道府県による薬剤師確保対策の取り組みも動き出しているが、医療機関の薬剤師不足は当面続くと考えたほうがいいだろう。

また看護補助者の人手不足は多くの医療機関が感じているのではないだろうか。看護補助者が該当する「保健医療サービス職業」は、2012年度は1.10倍だったが、2022年度は3.10倍まで上昇しており、今回示した職業分類のなかで最も採用困難な職種になっている。今後さらに需要が増える可能性は高いものの、令和2年医療施設調査によると看護補助者は従事者数自体が減少傾向にあり、採用のハードルは一層高くなることが想定される。

医療従事者の負担軽減や医師の働き方改革を進めるためには、医療機関の人材採用力が問われることになりそうだ。


【2023. 11. 1 Vol.579 医業情報ダイジェスト】