診療報酬

個室料金設定は松竹梅の法則を活用

「選定療養」は保険導入予定がなく、「評価療養」は保険導入が前提
株式会社MMオフィス 代表取締役 工藤 高

■「選定療養」は保険導入予定がなく、「評価療養」は保険導入が前提

厚労省は2023年7月5日の中医協総会において2019年〜2022年の各年7月1日時点における「主な選定療養に係る報告状況」を公開した。「選定療養」とは、厚生労働大臣が定める患者の快適性・利便性に関する療養、医療機関や医療行為等の選択に関する療養のことであり、代表的なものには室料差額ベッド代がある。新幹線のグリーン車的な患者自己負担分であり、将来的にも公的保険導入の予定はないのが選定療養である。一方、「評価療養」とは、厚生労働大臣が定める高度な医療技術を用いた療養その他の療養で、将来、公的保険給付の対象とするべきかどうか評価を行うものである。先進医療は「評価療養」のひとつになる。

厚労省によると「特別の療養環境の提供に係る病床」、いわゆる室料差額は2022年7月1日現在で全国において266,765床で徴収されている。これが総病床数1,315,107床に占める割合は「1人室」13.9%、「2人室」3.0%,「3人室」0.3%、「4人室」3.1%の合計20.3%となっている。最も高い個室料金は1日385,000円、最も低いのは50円とその差は7,700倍にもなり、「5,501円〜8,800円」が48,417床と最頻値となっている。

■ ナッジとは「肘で軽く突く様にして人々の行動を変える」こと

急性期病院では平均在院日数が短縮化され、クリニカルパス等で入院期間も明らかになっているため個室入院希望が多くなっている。たしかに病気になって入院した途端に、室料差額を支払わなければ通常は4人部屋での他人との療養生活となる。わが国は国民皆保険による「安い自己負担(自己負担額が高額になっても一定限度額以上は払う必要がない高額療養費がある)」「医療機関へのフリーアクセス」という大きなメリットによって平均寿命が長い国となった。医療レベルは向上したが、大部屋中心の療養環境は戦時中の野戦病院とあまり変わっていない。

室料差額価格の決定には診療報酬という公的価格に慣れた病院経営者は不慣れであることが多い。基本的に室料差額と人間ドック価格は自由価格である。ただし、現実とかけ離れた高額料金を設定すれば利用者はいなくなってしまう。
行動経済学に「ナッジ(nudge)理論」がある。これは「肘で軽く突く様にして人々の行動を変える」ことである。寿司や鰻に「松竹梅」の価格がある場合、真ん中の竹へ一番注文が多い「松竹梅の法則」活用や居酒屋の「本日のおすすめメニュー」もナッジである。本来のメニューとは別紙になった「本日のおすすめメニュー」は新鮮なネタを使っており、さらに注文して早く出てくると思って、ついつい注文してしまう。でも、本当は本日までが賞味期限の食材を使ったものかもしれない。場合によっては賞味期限切れかも分からないが、そこには店側と客の「情報の非対称性」がある。複数の調理員がいる場合は内部告発で表面化する可能性があるが、店主1人だけの店では分からない。

診療報酬や介護報酬でもナッジは多用されている。介護療養病床から介護医療院への転換もナッジであった。ところが、前回2021年介護報酬改定の介護医療院の移行定着加算廃止および2024年3月末廃止予定である介護療養病床における単位引き下げと移行計画未提出減算はナッジからエルボードロップ(プロレスの倒れ込みながらの肘打ち)というダメージが大きい打撃技に変わったと言えよう。DPCや地ケア病棟も最初はナッジであった。ただし、前回改定で200床以上病院の地ケアに関して院内転棟6割以上は入院料15%減算という強烈なエルボーに変わった。

■利用して欲しい個室を「竹」価格設定にする

個室料金を「松竹梅の法則」のナッジ理論で考えて、病院側で最も多くて、利用して欲しいものを「竹」価格設定する。個室料金が1万円(個室A)、7500円(同B)、5000円(同C)の3種類としたら、竹に該当するB7,500円の部屋数を最も多くする。そして、寿司「特上」のような特別室20,000円を1〜2室別に設置する。

地方都市にある病院では上記の松竹梅価格設定で特室1室、(A)4室、(B)22室、(C)4室がある。(B)7,500円の稼働率が平均80%程度になっているのに対して、室数が少ない(A)(C)は平均50%前後の稼働になっている。都会のブランド病院ならば竹(B)を2万円に設定すればおのずと(A)(C)の料金設定は変わってくる。そして、個室稼働が高ければもっと料金を上げて良いし、一方、稼働が低ければ料金を下げる必要がある。つまり、個室料金は需要に合わせて弾力的に変える必要があるわけだ。もちろん、変更に当たっては、その都度、地方厚生局に報告しないといけない。

個室料金はアメニティ、地域性、病院ブランド力をベースに売り手(供給)の病院側と買い手(需要)の患者側の「均衡価格」におさまる。だが、これを見誤って「獲らぬ狸の皮算用」的に高い個室料金設定で空気しか入院していない病院もある。
その場合は料金を下げなければならない。


【2023. 8. 1 Vol.573 医業情報ダイジェスト】