保険薬局

災害薬事を考える

被災者に寄り添った支援の提供
たんぽぽ薬局株式会社 薬剤師 緒方 孝行
2024年1月1日16時に最大震度7、M7.6を観測した能登半島地震。この災害が能登半島各地に甚大な被害をもたらしてから1年が経過する。今もなお、復興に向けて地域住民の方々は奔走されており、その被害の大きさを改めて実感する日々である。私も日本保険薬局協会へ出向していたため、会員薬局への被害状況の確認や被災地支援をどのようにして行うのか、また他団体との連携をどのようにとっていくのかなど、およそ2か月間奔走していたことは記憶に新しい。日本という国は、昔からさまざまな災害を経験してきている。台風やゲリラ豪雨による水害や熊本地震、東日本大震災にもあった地震災害、それに伴う津波による被害もあり、災害に対する備えを平時から行うことはプライオリティの高いトピックスになっている。さらに言えば、首都直下型地震や南海トラフ地震などの危険性が度々報じられており、首都圏など国の中枢が機能しなくなったときに、我々はどうやって命を守るのか、こういったことまでを考える必要がある時期に来ていると感じている。
では、保険薬局やドラッグストアは災害発生時にどのようなことができるのか、平時の備えや災害発生時の対応はどういったことに注力していく必要があるのか、災害で得た経験を形骸化させることのないよう考えていきたい。

まずは、筆者の居住区である東海地区で想定されている南海トラフ地震に関して、その影響の大きさについて改めて確認をしたい。震源地は想定では陸地に近く浅いため、かなりの広範囲に被害が及ぶことが懸念されている。またあくまで予想であるが、震度7の地域が東日本大震災の96倍となり、静岡県や和歌山県においては発災後に津波が2分ほどで到達する危険性が示唆されている。被害規模においては九州地方1割、四国地方3割、近畿地方2割、中部地方4割と目安が示されており、特に中部地方は重点受援県とされている。こういったいわゆる大規模災害に向けて、正しく理解をした上で、その対応方法を考えておく必要がある。また医療提供施設としてどのようなニーズ・連携が求められ
ており、それがどこと連携することが最も迅速に事が進むのか、これらを今から整備しておくことが重要となる。

ではこのような災害時において、保険薬局やドラッグストアが行うべき優先事項としてはどういったものがあるのだろうか。この点に関しては、その被災地における医療提供の継続に尽きる。もちろん、従業員の方々の安全確保は第一になるが、その地域の医療インフラを保ち続けるためには、病院や自衛隊など被災地を支援している機関と連携した上での医療提供は必ず必要となる。そういったことを実現していくために、被災地域の災害対策本部としっかりと情報連携を行い、自薬局・自地域の被災状況を共有し、運営の可否、運営の再開目途などを伝え、その地域の医療提供状況を災害支援に関わる方々と共有することが重要となる。また行政などに必要な支援や資材などを要望していくことも重要であり、国が現地の状況を把握し、必要な支援を行うためにはリアルタイムの情報共有は欠かせない。自薬局での対応が困難であれば、いつから処方箋応需を再開できるのかを伝えることが重要であり、その地域の医療インフラがどのタイミングで整うかを地域として整備することも重要となる。また厚労省からの通知などの迅速な把握も重要な視点だろう。どの程度の特例が認められているのか、患者負担に関する情報はどうなっているのか、こういった情報をうまく収集できていない場合、発災時とはいえ特例的な処置が認められている範囲があるため、注意が必要であ
ろう。
我々薬剤師が行うべきことは何も処方対応のみではない。避難所の換気や消毒など、衛生管理も担う必要があり、避難所などにいる被災者の健康状態を維持するためにも普段の業務においても、衛生管理という点での意識は必要になると考えられる。衛生面にプラスして必要となるケアは、被災者・支援者のメンタルケアである。被災された方はそれだけでも非常に精神的に負担がかかっているが、避難所生活が長期にわたると非常に大きな精神的な負担となり得る。そういった心のケアを行うことも避難所・救護所で行われるべき事項であり、このケアを薬剤師が担うことも必要になるだろう。 「Do more harm than good」 、自身の考えを押し付けることなく、被災者に寄り添った支援の提供を行っていくべきなのだ。また被災者と同様に支援者にも心のケアが必要になる。支援者も知らず知らずのうちに疲弊しており、支援者をケアすることも長期的な被災地支援に欠かせない部分なのである。

今般、各地で災害が発生しており、明日にでも皆様の薬局が何らかの災害で被災する可能性がある。その際に慌てることがないよう、事前に企業BCPを作成しておき、BCPに沿って対応にあたることが重要である。その地域の医療インフラをいち早く復旧させ、医療提供体制を整えていく必要がある。災害に強い薬剤師が各地で1人でも多く増えていくことが基盤強化に繋がる。我々は医療従事者の一人として、災害時のひっ迫した状況においても患者・地域住民の健康に寄与していく役割を担っているのである。


【2025.1月号 Vol.344 保険薬局情報ダイジェスト】