組織・人材育成

医療機関におけるジョブポスティングについて考える

職務をワクワクするものに変える努力をしよう
株式会社To Doビズ 代表取締役 篠塚 功
先日、クライアント病院から、役職立候補制度を見直すとの報告を受けました。医療機関で、この制度を導入している所はあまりないと思います。自ら師長をやりたい、科長をやりたいといったキャリアを選択する役職立候補制度は、医療機関におけるジョブポスティング(社内公募制度)の1つの方法と考えます。
この病院の役職立候補制度は、一定の任期を終了すると、役職者は全員役職を解かれ、全役職を空席として新たに役職者を募る制度です。この任期を病院の中期計画の期間に合わせたいとの報告でした。すなわち、中期計画達成に向けて、共に頑張ることをコミットできる役職者を募るということです。
最近、国が推奨するジョブ型人事における、自らキャリアを選択するという目的を達成するためには、従来の年功的な昇格・昇進基準に則って役職者を決めるとか、将来の幹部候補生を育成するためにジョブローテーションを行うというよりも、自ら手挙げをして役職や他の職務に就くというジョブポスティングの仕組みを入れていくことが、意欲のある人材を獲得するための一方策と言えます。
そこで、今回は、医療機関におけるジョブポスティングについて考えます。

医療機関のジョブポスティングのスタート地点と考えられる対象職務

冒頭の役職立候補制度を導入し全役職者を募集しても、役職者に手を挙げる人がいなければ、結局は病院が決めた人を役職者にするしかありません。また、すべての職務において、ジョブポスティングを行うことは実務的ではありません。そこで、まずは特定の職務について院内公募を行うべきでしょう。
例えば、感染管理に専門的に取り組む職務や職員研修担当職務を新たに設けたので、院内公募をするといった形がよいのではないでしょうか。役職者についても、冒頭の病院のように任期が来たら全員解職し、新たに応募するよりは、空席ができた時に公募する所からスタートすることが無難だと思います。
そして、最初の取り組みは、委員会の委員を院内公募で決めてみるというのはどうでしょうか。病院などには多くの委員会があるわけですから、その委員は、院内公募で選んでみてはどうかと考えます。委員であれば、任期が決められていますから、一定の期間だけのことであり、現在の職務を継続しながら、新たなスキルを身に付ける機会となります。例えば、感染管理委員会の委員を一部公募とすることは可能と思われます。委員に応募して、感染管理の知識等を学ぶことが、感染管理の専門家としてのキャリアに進むきっかけになるでしょう。
委員会の委員と同様、任期がある職務としては、プロジェクトのメンバーを公募することも考えられます。例えば、新病院を開設するために、看護師採用プロジェクトチームを立ち上げたとすれば、そのメンバーを公募してはどうでしょうか。職員採用の方法を学ぶ機会となり、将来、人事部員を公募しようとした際に、応募してくれる人が現れるかもしれません。
このように期間があり、専属というよりは兼務の部分から、院内公募をスタートさせてはどうかと考えます。そして、将来的には、師長や科長といった役職者の職務、感染管理や医療安全など専門性の高い職務、企画部や人事部といった事務の職務などが、ジョブポスティングの対象にできると思われます。

職務をワクワクするものに変える努力をしよう

部下自ら、ある職務に手を挙げるということは、上司にしてみれば、自分の所の優秀な人財を手放すことになります。例えば、優秀な医事課員が、将来のキャリアを病院経営幹部と定め、企画部への公募に応募すれば、医事課の人財が1人減るわけですから、医事課長は、それを許可するのをためらうでしょう。したがって、ジョブポスティングを導入した場合、上司の許可は不要であり、上司には内緒で応募してよいというのが、一般的な方法と思われます。しかし、これからの上司は、部下がどのようなキャリア形成を望んでいるかを知り、それを支援できる人でなければならないと考えます。
そして、今後は、職員自らが職務を選んで、異動をしていくことを想定すれば、各管理職は、自らの部署の職務を職務記述書(job description)という書式で、ワクワクするようなものとして表し、募集することが大事です(このことは先述の委員の職務等でも同様です)。大昔、人事課長の職務記述書を書いた時には、あれもこれもしなければならないといった内容にしましたが、そうではなく、ワクワクを感じられる内容にすべきだったと反省しています。これからの管理職は、自らの職場の職務について、デューティの部分はきちんと伝えるとしても、若い人がワクワクするような仕事であることを伝える努力と、実際にみんながワクワクするような職務や職場にする努力をし続けなければなりません。


【2024. 12. 15 Vol.606 医業情報ダイジェスト】