病院・診療所

新たな地域医療構想の方向性

厚労省は新たな医療機関機能案として4+1を提案
株式会社MMオフィス 代表取締役 工藤 高

■ 急性期病床がまだ多くて、回復期病床が不足という現状

わが国の高齢者割合がピークとなる2040年を見据えた厚労省の 「新たな地域医療構想等に関する検討会」 における議論が大詰めとなった。わが国の65歳以上の高齢者人口割合は2024年に29.3%となり、過去最高を更新し続けている。筆者も昨年から高齢者となった。2040年代には団塊ジュニア世代が高齢者になるため、高齢者割合が過去最大の約35%となる。これが 「2040年問題」 である。高齢化による高齢者人口の増加と、少子化による労働人口の急減が同時進行で起こり、日本経済や社会保障の維持が危機的状況に陥るとされている。
2014年6月に成立した 「医療介護総合確保推進法」 により制度化された地域医療構想は、二次医療圏を基本とした構想区域ごとに2025年に必要となる病床数を推計し、関係者の協議により病床の機能分化と連携を進め、効率的な医療提供体制を構築する取り組みである。将来人口推計を基に 「高度急性期」  「急性期」  「回復期」  「慢性期」 の4つの医療機能別に必要病床数を推計し、構想区域ごとの整備目標を定め、目標達成に向けて協議を重ねていくものだった。各医療機関が毎年10月に行う病床機能報告では、高度急性期と急性期、急性期と回復期の違いがわかりづらいという指摘が多かった。

■厚労省は新たな医療機関機能案として4+1を提案

12月6日に開催された 「新たな地域医療構想等に関する検討会」 では次の内容が大筋で了承された。これまでとの最大の違いは 「入院医療だけでなく外来医療・在宅医療、介護連携等も対象」 とされた点だ。病床機能報告については従来通りの4区分にする。ただし、高齢者救急等の受け皿として、急性期と回復期機能のハイブリッドが必要になっている。これまでの 「回復期」 に代えて、 「高齢者等の急性期患者について、治療と入院早期からのリハビリテーション等を行い、早期の在宅復帰を目的とした治し支える医療を提供する機能」 及び 「これまでの回復期機能」 を 「包括期機能」 とした。
二次医療圏等を基礎とした構想区域ごとに確保すべき医療機関機能として4機能、広域な医療機関機能として大学病院本院のみに限定した 「医育および広域診療機能」 を位置づける予定である。

【構想区域ごとに確保すべき医療機関機能】
①高齢者救急・地域急性期機能
②在宅医療等連携機能
③急性期拠点機能
④専門等機能

【広域な医療機関機能】
⑤医育および広域診療機能(大学病院本院のみ)

①高齢者救急・地域急性期機能は、高齢者をはじめとした救急搬送を受け入れるとともに、必要に応じて専門病院や施設等と協力・連携しながら、入院早期からのリハビリテーション・退院調整等を行い、早期の退院につなげ、退院後のリハビリテーション等の提供を確保する機能である。②在宅医療等連携機能は、地域での在宅医療の実施、他の医療機関や介護施設、訪問看護、訪問介護等と連携した24時間対応や入院対応を行う。③急性期拠点機能は、地域での持続可能な医療従事者の働き方や医療の質の確保に資するよう、手術や救急医療等の医療資源を多く要する症例を集約化した医療提供を行う。④専門等機能は、①〜③の機能にあてはまらないが、集中的なリハビリテーション、中長期にわたる入院医療機能、有床診療所の担う地域に根ざした診療機能、一部の診療科に特化し地域ニーズに応じた診療を行うものだ。
①②は地域の実情に応じた幅をもった報告のあり方を設定するが、③急性期拠点機能は報告に当たって、地域シェア等の地域の実情も踏まえた一定の水準を満たす役割を設定し、アクセスや構想区域の規模も踏まえ 「構想区域ごとにどの程度の病院数を確保するか」 を設定する予定だ。これにより 「自称・急性期」 的な報告は難しくなると思われる。他に広域な観点で確保すべき医療機関機能として大学病院本院には⑤医育および広域診療機能を位置づける。

■ 高齢者救急等機能は地域包括医療病棟入院料とオーバーラップ

医療法上に位置づけられた地域医療構想と健康保険法上の診療報酬は車の両輪となってわが国の医療提供体制を誘導していく。①高齢者救急等機能は2024年度改定で創設された地域包括医療病棟入院料とオーバーラップする。同入院料は出来高の急性期一般入院料4(10対1看護)や地域包括ケア病棟から転換すれば増収効果は大きいのだが、2024年11月21日時点における全国地方厚生局データによると104病院と多くはない。
施設基準のハードルが高いのが理由であるが、最初はハードルを高めに設定する 「様子見点数」 である。地域包括ケア病棟入院料も2014年創設当時は手術・麻酔が包括だったため、外科系病院の届出がなかった。2年後の2016年度改定でこれらが出来高になり、さらに2018年度改定で1〜4の4類型になった。様子見で高めのハードルを課さなかったことの失敗が2006年改定で創設された 「7対1入院基本料」 (現:急性期一般入院料1)であるが、その大幅粛清が今改定で実施された。地域包括医療病棟入院料については、次回改定までに届出が増加しなければ現行の入院料を1にして、ハードルを下げた2以降の入院料設定といった緩和措置が取られるのではないだろうか。ここが拡大しないと2040年における病床機能一丁目一番地にあたる①高齢者救急等機能が増加しないからだ。


【2025. 1. 1 Vol.607 医業情報ダイジェスト】