病院・診療所

未熟な新人スタッフを教育し成長させた事例

新人や未熟なスタッフを応援する環境を整える
合同会社MASパートナーズ 代表社員 原 聡彦

【相談内容】

これまで受付事務スタッフの新人教育を現場に任せていました。正確に言うと、受付事務の仕事について放置している状態で開業以来10年間過ごしてきました。先日、入職後2年を経過している受付事務スタッフのことで患者さんから注意を受けました。 「受付スタッフのAさんは対応が悪すぎる。診察の順番を間違えるし、保険証の返却を忘れるというミスを繰り返している。間違いやミスだけなら大目に見たいが、言い訳をして謝らない。こんなことは言いにくいが、きっちり教育してほしい」 と直接クレームを伝えてくれました。院長である自分から見てもAさんの業務レベルは低いので、直々に教育しましたが、厳しい口調で指導すると泣き出します。また、周りのスタッフが注意、指導しても同じミスを繰り返してしまいます。このようなスタッフに対する教育方法を教えてください。

【回 答】

経営相談に来社いただいた院長より、受付スタッフの教育について相談をいただきました。私のほうから下記の回答をしております。

1. 新人や未熟なスタッフを応援する環境を整える
2年間、放置された後に熱心な教育指導を受けたAさんに対してコンサルタントの私が面談をしました。
「先生や先輩方からいろいろ言われる事が多すぎて頭がパンクしそうです。指導を受けた内容は頭に残らないけど、嫌な気持ちだけは心に残る!」 という言葉を残して退職されました。私はこの経験から入職後の教育を現場任せで放置しないことを肝に銘じて現場のコンサルティングにあたっています。
「鉄は熱いうちに打て!」 という言葉がありますが、最初が肝心です。入職直後から院長をはじめ周りのスタッフが真摯に新人スタッフと向き合い応援していく環境を整えていくことがポイントです。新人教育に熱心なクリニックの院長は 「新人のうちに教え、叱り、承認を繰り返してこそ、新人スタッフに成功体験を積み重ねさせることができ、仕事のおもしろさを発見できる気づきの力を養うことができるのです」 と語っています。仕事の喜びや楽しさを発見するためには、小さな成功体験を積み重ねることが必要です。私はこの小さな成功体験を 「小さなガッツポーズのできる体験を増やそう!」 と伝えています。ぜひ、小さなガッツポーズのできる職場を作っていただきたいと思います。

2. 定期的な個人面談を行い自発的な行動を引き出す
スタッフ間のコミュニケーションについて改善させるのはクリニックのトップである院長がスタッフといかに向き合うかがポイントとなります。スタッフ一人ひとりに対し向き合うか、中心となっているスタッフと向きあうか。クリニックの規模によっても異なり、クリニックの実状に合ったやり方で実践してほしいと思います。あるクリニックのT院長は、スタッフ間のコミュニケーションを改善するために部門長、中心となっているスタッフに対し個人面談を実践しています。T院長の個人面談の内容は下記のとおりです。
  1. 承認(何を言っても受け入れてもらえる)
  2. 傾聴する(話を最後までじっくり聴く)
  3. フィードバックする(次の行動へつなげる)

3. 新人業務日報を毎日提出してもらい振り返りを行う
初めて行った業務、反省点、注意されたことなど、図のような日報(記載例)を毎日書いて提出してもらいます。日報の提出状況や日報の中身を見て新人の仕事への取り組み姿勢がわかります。先輩には日報を確認して必ず一言、長所と注意すべきアドバイスを記載してもらっています。この日々の積み重ねが相互理解を深めていきます。



4.効果的なフィードバックを行う
個人面談はフィードバックに重点を置いてやり続けることをお勧めします。フィードバックの目的は弱点を強調することではなく、スタッフの強みと改善点を洗い出し、さらに向上するために行います。次の3つの事項をフィードバックしていただくと効果的です。
  1. Keep to do:効果があり継続すべきこと。
  2.  Start doing:さらに良くするために新たに取り入れること。
  3. Stop to do:避けるべきこと。
上述した個別面談を2年間続けた結果、新人や未熟なスタッフに対して患者さんから感謝の言葉や良い評価をいただくようになり、T院長は手ごたえを感じているようです。

最後に、人材を育成する際に大切なことは、仕事の楽しさを伝えることであり、院長自身が仕事を楽しむことだと思います。スタッフをやる気にさせるためには、まずは院長が仕事を楽しんでいる姿をスタッフに見せる事をおすすめします。


【2024. 12. 15 Vol.606 医業情報ダイジェスト】