組織・人材育成

働き甲斐を生む職場づくり

非常勤で働く職員も働き甲斐が得られているケース
株式会社メディフローラ 代表取締役 上村 久子
24年度の医療と介護・福祉サービスの同時改定に向けた議論がいよいよ具体的な内容に突入してくる秋になりました。診療報酬改定の施行時期は2か月後ろ倒しにすることが中医協で了解されたとのことで、現場での影響が懸念されます。さて、今回は常勤だけではなく非常勤で働く職員も働き甲斐が得られていることが分かるクリニックの事例から、働き甲斐のある職場づくりについて考えていきたいと思います。

ケース:

「私、このクリニックで働くことがとにかく楽しいのです!」と語るのは地方都市にある駅近くのクリニックで働き始めて半年になる非常勤Aさん(コメディカル)です。このクリニックには月に4回しか勤務のないB医師(勤続1年目)もおられますが、Bさんも「このクリニックで働く時間は私にとって貴重です」と語ります。クリニックの院長先生が笑顔でこうした職員の言葉を伝えて下さいました。

筆者「素晴らしい言葉が出てきましたね。最近、入職された方の緊張が取れて笑顔で勤務されるようになるまでの期間が短くなったように感じていますが、この言葉を伝えて下さったのはなぜですか?」

院長先生「純粋に嬉しかったですね。彼らがとても楽しそうに働いているのは感じていたのですが、実際に言葉にして伝えられると嬉しさが何倍にもなります」

筆者「本当にそうですね。彼らは非常勤で常勤の方よりも短い時間で働いていますが、例えばB医師は他のクリニックでも働いておられたと思います。通常、拘束時間が長い常勤の勤務先の方が帰属意識は高くなりやすいと考えます。ところがこのクリニックの場合は常勤・非常勤問わず帰属意識が高く、お仕事を楽しまれている雰囲気を確かに感じます。なぜ勤続時間が短くても働き甲斐が感じられていると思いますか?」

院長先生「二人とも他のクリニックでの経験がありますが、一番は知識欲に答えられていることだと思います。Aさんは『ここで働くようになってから自分で考えて動ける楽しさが分かりました』と伝えてくれました。前の職場は指示されたことだけを行えば良かったそうですが、このクリニックはスタッフの考えを大切にしているから主体的に動けるそうです。B医師も技術的なことで学びが大きいと言っていました」

筆者「それは嬉しいですね!以前はこのような環境では無かったと思いますが、以前と比べて院長先生が変わった点があるとすれば何だと思いますか?」

院長先生「(しばらく考えて)…私はスタッフに何でも言い過ぎていましたね(笑)スタッフに対してこうなってほしいという要望が強く、常に言葉にして発言していました。今思えばうるさかったと思いますし、私の言葉の圧が強すぎて、理解できなかったとしても質問できる雰囲気ではなかったと思います。感覚的には7割くらい言葉を発しなくなりました。その代わり、話を聴くように意識しています。まだ出来ているとは思いませんので修行中です」

このクリニックに関わるようになってから10年近く。以前は全体研修で院長先生の発言量が多く、スタッフは様子をうかがいながら言葉を発していたのですが、今では院長先生は基本「耳」となり、一生懸命お話したいのを我慢している様を確認しています。

このケース、どのような感想を持ちましたか?
私自身、先入観で「非常勤の方は勤務時間が短いため他のスタッフと色々な意味で差が出てしまうのは仕方がないもの」と思っていたのですが、このクリニックとの出会いですっかり認識が変わりました。拘束される時間の長さではなく、その職場でどういう時間を過ごすのかが大切だという、至極当たり前なことに気付かされたということです。

勤務時間が短いということは直接会える時間が短くなるため、相手に求める要望をしっかり伝えなければと短時間でたくさんの情報を伝え、「伝えたからOK!」と伝わったかどうかは関係なく伝えたことに満足してしまうことはよくあることです。勤務時間が短いほど、相手の言葉に耳を傾け、相手の考えをしっかりと受け止めることこそが働き甲斐を生むのだとこのクリニックから学んだのでした。とても単純でとても難しいかもしれませんが、まずはご自身がどれだけスタッフの言葉に耳を傾けられているか振り返ってはいかがでしょうか?


【2023. 9. 15 Vol.576 医業情報ダイジェスト】