組織・人材育成
職業人である意識を持つこと
組織力が高まるケーススタディ
株式会社メディフローラ 代表取締役 上村 久子
医業の現場という専門職種が集まる組織はもちろん、どんな規模のどんな職種の事業所であっても組織員一人ひとりの存在は欠かせません。ただし、所属するスタッフ全てが組織に対して帰属意識を持ち、自分の職業に対するプライドを持って、積極的に仕事に向き合っているかどうかという問いには、難しさを感じるリーダーの方が多いのではないでしょうか。今回はそんな職業人たる意識を持っていただくために工夫をしているリーダーのお話を紹介いたします。
ケース
とある美容系のクリニックAでのお話です。Aクリニックが属する法人は複数のクリニックを展開していますが、なかでもAクリニックの売り上げが特に高く、スタッフ教育のレベルも非常に高いために顧客満足度が高いことでも評価されています。このAクリニックをまとめる院長先生との対話です。
院長先生 「うちの法人が禁止しているわけではないのですが、うちのクリニックではバイクに乗ることとスノーボードに行くことは禁止だよ!とスタッフに伝えているのです」
と言い、院長先生はニヤリと笑顔になります。
筆者 「それはどういうことなのですか⁉」
院長先生 「正確に言うと禁止とまでは言っていないのですが、バイクに乗ったりスノーボードに行きたい時には、院長である私にひと言声を掛けるように、と言っているのです」
筆者 「そうなのですね!その意図を教えていただけますか?」
院長先生 「うちのスタッフは一人ひとりがかけがえのない重要な存在です。素晴らしい人材が集まって、この素晴らしいクリニックを作っています。各々が自分の仕事にプライドを持っていますし、またプライドを持ち続けられるように仕事を楽しめる工夫をしています。私は仕事を楽しむためには仕事以外の時間も重要だと思っており、仕事とそれ以外の時間は切っても切れない関係性だと思っています。例えばプライベートな時間でケガをしてしまったら、思うような仕事を行うことができませんし、大切な患者さんにも迷惑が掛かってしまいます。ただし、仕事以外の時間でリフレッシュすることも大切なので、気持ちよく休めるよう、小さな不注意が大きなケガになりやすいスポーツに挑戦する時には、意識的に安全に楽しんで無事に帰ってくることができるように私に声を掛けてもらうことにしています」
筆者 「そうなのですね!過去の経験から行っていることなのですか?」
院長先生 「実はそうなのです。遊びに出かける時は気分が高まってしまうことで、通常は気が付くことにも注意が向かなくなり、ケガに繋がってしまうことがあると思いますが、まさにそのような経緯でケガをした経験が私にはあります。結果的に仕事は休むことになってしまい、職員や患者さんに迷惑をかけてしまったことはもちろん、技術から離れてしまうことに対する恐怖や悔しさを強く感じました。無事に現場に戻ることはできましたが今でも後遺症は残っているため、自分のベストは尽くしていますが、以前のような動きができていないことにもどかしさを感じる日々です。同じ経験はしてほしくないことと、日常と仕事は繋がっていること、そして自分がどのような人生を生きていきたいかを考えてもらいたいと思い、自分の経験を職員に伝え、そして約束事を決めたのです。色んな意見があると思いますが、職員の皆はこんな私によくついてきてくれているので感謝しています」
このケース、どのような感想を持ちましたか?このクリニックでは 「バイク、スノーボードは絶対禁止!」 とスタッフに強要している雰囲気は決してありません。しかし、 「バイク、スノーボードに挑戦する際は院長先生に一声かけることで、自分で防ぐことができるケガは意識して起こさないようにしよう」 という約束事が、スタッフが仕事に真摯に取り組む姿勢に表れていることを感じました。
近年、 「仕事とプライベートは別のものであり、個人の自由をとやかく言うものではない」 という風潮を強く感じます。しかし、このクリニックの場合には個人の自由は尊重しながら、個人の自由に対して一切触れない(=プライベートは個人の責任である)のではなく、個人の自由な時間も次の仕事がより良くなるように過ごすという選択肢を与えているという意味で、職業意識を持つ訓練ができる環境になっていると感じました。リーダー層の方からのご相談で 「うちのスタッフの職業意識が薄くて困る、社会人としてどうなんだろう……」 というお話を伺うことは少なくありませんが、職業意識は社会人になったら自然とできるものでもないように思います。このように職業意識を持つことができる環境は、当ケースのような工夫により育成されるものではないでしょうか。少しでも、このケースが皆さまの組織作りの参考になれば幸いです。
【2025. 5. 15 Vol.2 メディカル・マネジメント】
院長先生 「うちの法人が禁止しているわけではないのですが、うちのクリニックではバイクに乗ることとスノーボードに行くことは禁止だよ!とスタッフに伝えているのです」
と言い、院長先生はニヤリと笑顔になります。
筆者 「それはどういうことなのですか⁉」
院長先生 「正確に言うと禁止とまでは言っていないのですが、バイクに乗ったりスノーボードに行きたい時には、院長である私にひと言声を掛けるように、と言っているのです」
筆者 「そうなのですね!その意図を教えていただけますか?」
院長先生 「うちのスタッフは一人ひとりがかけがえのない重要な存在です。素晴らしい人材が集まって、この素晴らしいクリニックを作っています。各々が自分の仕事にプライドを持っていますし、またプライドを持ち続けられるように仕事を楽しめる工夫をしています。私は仕事を楽しむためには仕事以外の時間も重要だと思っており、仕事とそれ以外の時間は切っても切れない関係性だと思っています。例えばプライベートな時間でケガをしてしまったら、思うような仕事を行うことができませんし、大切な患者さんにも迷惑が掛かってしまいます。ただし、仕事以外の時間でリフレッシュすることも大切なので、気持ちよく休めるよう、小さな不注意が大きなケガになりやすいスポーツに挑戦する時には、意識的に安全に楽しんで無事に帰ってくることができるように私に声を掛けてもらうことにしています」
筆者 「そうなのですね!過去の経験から行っていることなのですか?」
院長先生 「実はそうなのです。遊びに出かける時は気分が高まってしまうことで、通常は気が付くことにも注意が向かなくなり、ケガに繋がってしまうことがあると思いますが、まさにそのような経緯でケガをした経験が私にはあります。結果的に仕事は休むことになってしまい、職員や患者さんに迷惑をかけてしまったことはもちろん、技術から離れてしまうことに対する恐怖や悔しさを強く感じました。無事に現場に戻ることはできましたが今でも後遺症は残っているため、自分のベストは尽くしていますが、以前のような動きができていないことにもどかしさを感じる日々です。同じ経験はしてほしくないことと、日常と仕事は繋がっていること、そして自分がどのような人生を生きていきたいかを考えてもらいたいと思い、自分の経験を職員に伝え、そして約束事を決めたのです。色んな意見があると思いますが、職員の皆はこんな私によくついてきてくれているので感謝しています」
このケース、どのような感想を持ちましたか?このクリニックでは 「バイク、スノーボードは絶対禁止!」 とスタッフに強要している雰囲気は決してありません。しかし、 「バイク、スノーボードに挑戦する際は院長先生に一声かけることで、自分で防ぐことができるケガは意識して起こさないようにしよう」 という約束事が、スタッフが仕事に真摯に取り組む姿勢に表れていることを感じました。
近年、 「仕事とプライベートは別のものであり、個人の自由をとやかく言うものではない」 という風潮を強く感じます。しかし、このクリニックの場合には個人の自由は尊重しながら、個人の自由に対して一切触れない(=プライベートは個人の責任である)のではなく、個人の自由な時間も次の仕事がより良くなるように過ごすという選択肢を与えているという意味で、職業意識を持つ訓練ができる環境になっていると感じました。リーダー層の方からのご相談で 「うちのスタッフの職業意識が薄くて困る、社会人としてどうなんだろう……」 というお話を伺うことは少なくありませんが、職業意識は社会人になったら自然とできるものでもないように思います。このように職業意識を持つことができる環境は、当ケースのような工夫により育成されるものではないでしょうか。少しでも、このケースが皆さまの組織作りの参考になれば幸いです。
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