保険薬局
在支診薬剤師を知っていますか?
在宅医療の羅針盤
在宅療養支援診療所薬剤師連絡会 代表理事 在支診薬剤師 大須賀 悠子
私がこのコラムを書かせてもらうことになった理由の1つに、在宅医療での薬剤師の活躍を支援したいという思いがありました。在宅医療を提供する診療所に勤めているため、薬局とは違う立場で在宅医療を実践し、日々見て聞いて感じています。その中で、薬局薬剤師にお伝えできる有益な情報は何かを常に考えてきたからです。
在宅療養支援診療所(以下、在支診)に勤務する薬剤師を、私たちは 「在支診薬剤師」 と呼んでいます。在宅医療を提供する診療所において、院内にいる薬剤師がどのような業務を担っているのかについては、現場外ではまだ十分に知られていないのが実状です。在支診薬剤師の業務の主軸は 「調剤し薬を渡す」 ことではないので、なかなか想像しがたいのだと思います。実際私たちがしている仕事は、むしろ調剤を担ってくださる薬局薬剤師の方々の働きを支えることであり、それを通じて地域に貢献することが、私たちの本質的な役割だと認識しています。
在宅医療において薬剤の適正使用を支えるには服薬状況、生活背景、介護力、訪問看護の体制、さらには患者の価値観や意向など多くの情報が必要になります。こうした複雑な情報を整理し、診療所内外の多職種に橋渡しすることは、調剤に携わる薬局薬剤師にとっても、極めて有用な支援となるはずだと考えているからです。
全国に14,000件以上の届出がある在支診のうち3,500件あまりが24時間体制での対応が可能な 「機能強化型」 に分類されています。こうした診療所のうち、ごく一部に、薬剤師が院内スタッフとして配置されています。
私がこの仕事に就いてから10年以上が経ちますが、開始当時は、診療所に薬剤師がいると、薬局薬剤師がせっかく頑張って在宅医療に乗り出しても、その仕事を奪われてしまうのではないかと誤解されることもありました。自分自身も、診療報酬も調剤報酬も発生しない環境下で、院内においても、地域にとってもどのように役立っていけるのかを考え続ける毎日でした。
そうした中で次第に見えてきたのは、薬局薬剤師と在宅医(もしくは他の医療介護スタッフ)との連携を支える“つなぎ役” としての機能です。診療所内で医師と日々の診療方針を確認しながら、外部の薬局に対して処方の意図や背景情報を補足する。あるいは、薬局からの疑義照会等に対応し、診療所内での判断をタイムリーに伝える。こうした業務の積み重ねが、地域における薬物療法の安全性と効率性を高めていることに、徐々に気づいていきました。
実際、在支診薬剤師の役割は、診療所内だけの閉じたものではありません。むしろ、地域の医療介護の情報を各職種と相互に補完し合う構造をつくることが業務の中心にあります。たとえば、退院後の在宅移行時の薬剤調整などでは、情報が足らず処方医の意図が十分に伝わらないまま調剤が行われると、患者や家族だけではなく、介入するほかの医療介護スタッフも戸惑うことがあります。薬局に処方箋の情報しか行かなければ内服薬の内容しかわからず、その患者の背景まで考えた調剤は不可能です。在支診薬剤師があらかじめ情報を整理して薬局薬剤師に伝えることで、現場での混乱を最小限に抑えることができます。
また、情報共有は一方通行では成立しません。薬局から得られる情報⸺たとえば、患者の服薬実態や副作用の訴え、家族の不安の声など⸺は、地域連携チームのケア方針に反映されるべき重要な材料です。そのため、在支診薬剤師は、薬局薬剤師からの報告や問い合わせに対して積極的に応答し、必要に応じて処方の再検討や訪問診療時の対応に繋げる役割も担っています。
こうした関係性は、薬剤師という共通の専門性を持つ者同士だからこそ築きやすいものがあります。専門用語や業務のニュアンスが伝わりやすく、相談がしやすい。薬局薬剤師の皆さんにとっても、在支診薬剤師がいることで、医師や看護師とは異なる安心感や相談しやすさを感じていただけるのではないでしょうか。
さらに言えば、在宅医療における薬物療法は、病院と比較して“標準化” が難しいという特徴があります。患者の身体状態や住環境、経済的事情、家族の介護力など、さまざまな要素を同時に考慮しなければならないからです。たとえば、疼痛緩和のためのオピオイド注射薬を持続投与する際、どの薬剤を、どのデバイスで、どのようなスケジュールで使用するかは、必ずしも一律の答えがあるわけではありません。そうした判断において、薬局薬剤師の支援を得るためにも、在支診薬剤師が診療所内での調整を担うことは、大きな意義があるのではないかと感じています。調剤の手前にある設計と調整のプロセスを整理し、薬局側に情報を渡す。こうした段階的な支援によって、薬局薬剤師が本来の専門性を発揮しやすくなり、患者にとっても安心感のある薬物療法が可能となります。
在支診薬剤師は、薬を届ける役割を担う薬局薬剤師との連携なくして成立しません。協業することで、在宅医療のなかでの薬剤師の可能性をより広げていきたいと考えています。今後このエッセイでも、私以外の在支診薬剤師たちにそれぞれの取り組みを披露してもらおうと思っていますのでご期待ください。
【2025.5月号 Vol.1 Pharmacy-Management】
在宅療養支援診療所(以下、在支診)に勤務する薬剤師を、私たちは 「在支診薬剤師」 と呼んでいます。在宅医療を提供する診療所において、院内にいる薬剤師がどのような業務を担っているのかについては、現場外ではまだ十分に知られていないのが実状です。在支診薬剤師の業務の主軸は 「調剤し薬を渡す」 ことではないので、なかなか想像しがたいのだと思います。実際私たちがしている仕事は、むしろ調剤を担ってくださる薬局薬剤師の方々の働きを支えることであり、それを通じて地域に貢献することが、私たちの本質的な役割だと認識しています。
在宅医療において薬剤の適正使用を支えるには服薬状況、生活背景、介護力、訪問看護の体制、さらには患者の価値観や意向など多くの情報が必要になります。こうした複雑な情報を整理し、診療所内外の多職種に橋渡しすることは、調剤に携わる薬局薬剤師にとっても、極めて有用な支援となるはずだと考えているからです。
全国に14,000件以上の届出がある在支診のうち3,500件あまりが24時間体制での対応が可能な 「機能強化型」 に分類されています。こうした診療所のうち、ごく一部に、薬剤師が院内スタッフとして配置されています。
私がこの仕事に就いてから10年以上が経ちますが、開始当時は、診療所に薬剤師がいると、薬局薬剤師がせっかく頑張って在宅医療に乗り出しても、その仕事を奪われてしまうのではないかと誤解されることもありました。自分自身も、診療報酬も調剤報酬も発生しない環境下で、院内においても、地域にとってもどのように役立っていけるのかを考え続ける毎日でした。
そうした中で次第に見えてきたのは、薬局薬剤師と在宅医(もしくは他の医療介護スタッフ)との連携を支える“つなぎ役” としての機能です。診療所内で医師と日々の診療方針を確認しながら、外部の薬局に対して処方の意図や背景情報を補足する。あるいは、薬局からの疑義照会等に対応し、診療所内での判断をタイムリーに伝える。こうした業務の積み重ねが、地域における薬物療法の安全性と効率性を高めていることに、徐々に気づいていきました。
実際、在支診薬剤師の役割は、診療所内だけの閉じたものではありません。むしろ、地域の医療介護の情報を各職種と相互に補完し合う構造をつくることが業務の中心にあります。たとえば、退院後の在宅移行時の薬剤調整などでは、情報が足らず処方医の意図が十分に伝わらないまま調剤が行われると、患者や家族だけではなく、介入するほかの医療介護スタッフも戸惑うことがあります。薬局に処方箋の情報しか行かなければ内服薬の内容しかわからず、その患者の背景まで考えた調剤は不可能です。在支診薬剤師があらかじめ情報を整理して薬局薬剤師に伝えることで、現場での混乱を最小限に抑えることができます。
また、情報共有は一方通行では成立しません。薬局から得られる情報⸺たとえば、患者の服薬実態や副作用の訴え、家族の不安の声など⸺は、地域連携チームのケア方針に反映されるべき重要な材料です。そのため、在支診薬剤師は、薬局薬剤師からの報告や問い合わせに対して積極的に応答し、必要に応じて処方の再検討や訪問診療時の対応に繋げる役割も担っています。
こうした関係性は、薬剤師という共通の専門性を持つ者同士だからこそ築きやすいものがあります。専門用語や業務のニュアンスが伝わりやすく、相談がしやすい。薬局薬剤師の皆さんにとっても、在支診薬剤師がいることで、医師や看護師とは異なる安心感や相談しやすさを感じていただけるのではないでしょうか。
さらに言えば、在宅医療における薬物療法は、病院と比較して“標準化” が難しいという特徴があります。患者の身体状態や住環境、経済的事情、家族の介護力など、さまざまな要素を同時に考慮しなければならないからです。たとえば、疼痛緩和のためのオピオイド注射薬を持続投与する際、どの薬剤を、どのデバイスで、どのようなスケジュールで使用するかは、必ずしも一律の答えがあるわけではありません。そうした判断において、薬局薬剤師の支援を得るためにも、在支診薬剤師が診療所内での調整を担うことは、大きな意義があるのではないかと感じています。調剤の手前にある設計と調整のプロセスを整理し、薬局側に情報を渡す。こうした段階的な支援によって、薬局薬剤師が本来の専門性を発揮しやすくなり、患者にとっても安心感のある薬物療法が可能となります。
在支診薬剤師は、薬を届ける役割を担う薬局薬剤師との連携なくして成立しません。協業することで、在宅医療のなかでの薬剤師の可能性をより広げていきたいと考えています。今後このエッセイでも、私以外の在支診薬剤師たちにそれぞれの取り組みを披露してもらおうと思っていますのでご期待ください。
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