保険薬局

「まかせる」 と 「やらせる」 の違い ~チームはどのようにしたら育つのか~

薬局経営の今とこれから
株式会社iMus 代表取締役社長 薬剤師 安田 幸一
組織やチーム運営において、 「まかせる」 と 「やらせる」 はしばしば混同されがちですが、この二つの言葉には本質的な違いがあります。特に、少人数で構成される薬局、訪問看護ステーションをはじめとした、医療、介護の事業所では、日々の言動が信頼関係や生産性に直結するため、その使い分けは極めて重要です。育成とチーム運営の視点から 「まかせる」 と 「やらせる」 の違いを掘り下げてみましょう。
「まかせる」 とは、相手の能力や意欲を信頼し、一定の裁量と責任を持たせて仕事を委ねることです。そこには 「信頼」 と 「期待」 という前向きな前提が含まれ、相手の潜在能力を開花させる可能性を秘めています。 「相手は成長できる存在である」 という考えが根底にあり、長期的な視点で人材育成を行っています。
一方で 「やらせる」 は、業務を指示して実行させる行為であり、上下関係や管理意識が色濃く反映される傾向があります。命令型のコミュニケーションになりやすく、受け手が主体的に動く余地が狭まりがちです。短期的な成果や効率を重視するあまり、人の成長よりも業務の完遂を優先する思考パターンが働きます。確実に仕事を進められることも事実で、時間に追われる現場では、ついつい 「やらせる」 ことになっていないでしょうか?
この違いは、表面的な言葉の使い方だけでなく、リーダーとしての哲学や価値観の違いを映し出しているでしょう。日常の小さな積み重ねが、チーム全体の文化や風土を形成していくのです。

育成の観点では、 「まかせる」 ことによって相手の主体性を引き出すことができます。業務を通じて自ら考え、判断し、工夫する機会が得られ、その過程こそが成長の糧となります。たとえ失敗しても、その経験をフィードバックし、次に活かすことで、より自律的な人材育成が可能になります。一方、時間がかかることがネックとなり待てない場合、   「やらせる」 行為となってしまうのです。
反対に、 「やらせる」 ことに偏ると、指示待ちの姿勢が常態化しやすくなります。 「言われたことはやるが、それ以上はしない」 といった受動的な行動が目立ち、応用力や創造性に乏しい人材になりかねません。また、内発的動機づけ(本人の興味や価値観に基づく行動意欲)が育たないため、達成感やモチベーションが低下するリスクもあります。

「まかせる」 ことは、決して放任ではありません。適切な難易度の業務を与え、伴走しながら必要な支援やフィードバックを行うことで、自信と実力を積み重ねることができます。
薬局や訪問看護ステーションのような少人数チームでは、各メンバーの役割がチーム全体の成果に大きな影響を及ぼします。 「まかせる」 ことでメンバーの自律性が育ち、 「自分はチームに必要な存在だ」 という実感が得られます。これは、エン ゲージメント(組織への貢献意欲)や心理的安全性(安心して意見を言える環境)を高めるうえで非常に有効です。
一方、 「やらせる」 が常態化すると、少人数だからこそ命令的な言動が目立ちやすくなり、上下関係が固定化しやすくなります。結果として、不満や萎縮が生まれ、信頼関係が損なわれる恐れがあります。特に、現場での柔軟な判断が求められる業種(医療・介護など)では、 「やらされている」 状態ではパフォーマンスが低下しやすくなると思います。
少人数チームでは、メンバー間の補完関係が不可欠です。誰か一人の負荷が高まると、チーム全体への影響が大きいため、相互に補い合う関係性が求められます。そのためにも、 「まかせる」 ことによって信頼と役割意識を育み、スムーズな連携を実現することが重要でしょう。

「まかせる」 文化を育てるためには、次のような工夫が有効だと考えています。
  1. 段階的にまかせる:まずは一部の業務から始め、成功体験を重ねながらまかせる範囲を広げていく。
  2. 目的と期待を明確にする:「何のためにまかせるのか」「どのような結果を期待しているのか」を共有する。
  3. 相談できる環境を整える:「困ったら相談していい」という安心感を日常的に伝え、孤立を防ぐ。
  4. 振り返りの機会を設ける:業務終了後、成果だけでなく、過程や工夫、気づきを対話する場を持つ。
「まかせる」 は 「信頼」 と 「成長」 の起点であり、 「やらせる」 は 「管理」 と 「成果」 の手段です。どちらも状況に応じて必要ですが、育成やチーム形成においては 「まかせる」 姿勢がより重視されます。まかされることで自己肯定感が高まり、チーム全体の一体感と成果に直結します。
人とチームを育てるうえでは、単なる業務の割り振りを超えて、 「どのように関わるか」  「どのような関係を築くか」 、そして 「待つこと」 が重要です。短期的な効率を犠牲にしてでも、長期的な成長と組織の発展を見据えた関わり方こそが、真のリーダーシップとなるのではないでしょうか。


【2025年9月号 Vol.5 Pharmacy-Management 】