組織・人材育成

ショック!伝わっていなかった…

伝えた内容が全く伝わっていなかったケース
株式会社メディフローラ 代表取締役 上村 久子
20年前の2003年8月の日本における平均気温は26度、そして執筆時点で今年8月の平均気温は29度台だそうです。このように数値で表されると環境変化が具体的でわかりやすいものですが、組織の雰囲気や風土は正確に数値で捉えることは難しいですね。今回は、伝えた内容が全く伝わっていなかったことが判明し、ショックを受けた院長先生のケースをご紹介します。

ケース:

駅の近く、住宅街にあるクリニックのお話です。このクリニックの院長先生から慌てた様子で「伝え方が上手になるにはどうしたら良いですか」とご連絡がありました。

筆者「何があったのですか?まずは落ち着いて、状況を教えてください」

院長先生「実は朝礼である業務についてスタッフに伝えたのですが、一番長く勤めているスタッフ1人(Aさん)にしか私の伝えた内容が伝わっていなかったことが分かったのです」

筆者「それはショックでしたね。どのように判明したのですか?」

院長先生「今までも、私が朝礼で指示した内容について朝礼終了後にAさんがスタッフに対して正しく伝わっていたか確認し、伝え直すという作業を行っていたそうです。Aさん曰く『今の院長先生なら私の指摘を受け入れてもらえると思った』とのことで、私にこの事実を伝えてくれました。以前の私だったら指示が伝わっていないことに対して『聞いていないスタッフが悪い』と批判していたと思いますが、今は自分の伝え方に問題があることを認識しています」

筆者「ご自身の課題として認識されたとのこと、素晴らしい気付きですね!考え方を変えてみると、Aさんには伝わっていたのですから、全く理解不能なことを伝えられているわけではありませんね。Aさんにはなぜ伝わっているのだと思いますか?」

院長先生「慣れ…でしょうか。長く働いてもらっているので私のことをよく分かってくれているので」

筆者「質問を変えます。Aさんは院長先生の言葉をどう聞いているのだと思いますか?他のスタッフとの違いは何だと思いますか?」

院長先生「私の癖を知っているのもあるし…分からなければその場で質問もしてくれます。他のスタッフは…あまりその場で質問が来ることはありませんね」

筆者「また質問を変えましょう。Aさん含めてスタッフの皆さんと日ごろどのようなコミュニケーションをとっていますか?」

院長先生「Aさんとは業務内容について相談をすることがありますが、他のスタッフはどうかな…。そう言われると他のスタッフに対しては目標面談など指示・命令の形で一方的なコミュニケーションは行っているけど、スタッフが何を考えているのか、どう理解しているのかといった双方向のコミュニケーションは取ってないことに気が付きました。私が次にしなければならないことが分かった気がします」

このケース、どのような感想を持ちましたか?
相手に自分の考えや思いを伝えることを不得意であると感じている経営者からのご相談は少なくありません。そして、その多くがこのケースのように「伝え方が問題ではなく、日常的な双方向のコミュニケーションが不足していること」が根本の要因だと気付かされます。
相手のことを理解したいと考えていたら、言葉を聞くだけではなく「この人は何を言わんとしているのだろう」と耳と目、そして雰囲気など感じ取れるもの全部で読み取ろうとするものです。そして、不明な点を質問したり確認したりすることで相手への理解を確実なものにしようとし、相手の意図に沿った行動を取ろうとします。反対に、そこまでして理解したい人でなければ、こんな労力はかけようとしないもの。ということは、日常的に信頼関係が構築されていることで、お互いに聞き合い、理解し合うことが当たり前に行える関係性ではなければ、伝えたいことも伝わりにくくなることは、ある意味自然なことと言えるかもしれません。

「仕事だから上司の指示に従って当たり前」とおっしゃる方もおられるかもしれません。しかし、そのような関係性だと、「言われたことしか行わない」という現象が起こり兼ねません。多くの経営者が望まない現象ですよね。

伝わりやすい技術を磨くことは出来るかもしれませんが、伝え合える関係性を日常的に意識することで、信頼関係や帰属意識の向上など、伝わること以上の成果が得られると私は考えます。


【2023. 9. 1 Vol.575 医業情報ダイジェスト】