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抗サイログロブリン抗体の査定事例

請求業務のポイント解説
株式会社ウォームハーツ 古矢 麻由
現在、検査・画像診断において、ガイドラインを根拠とする査定傾向があります。審査側から医療機関への通知には、ガイドラインに則っていない連月検査や診断手順の内容が届いています。
本稿では、甲状腺検査の査定事例 「抗サイログロブリン抗体検査」 を取り上げ、運用の留意点についてお伝えいたします。

D014 自己抗体検査
10 抗サイログロブリン抗体 136点
査定理由
【増減点事由】診療内容に関するもの
A:療養担当規則等に照らし、医学的に適応と認められないもの
B:療養担当規則等に照らし、医学的に過剰、重複と認められるもの
C:療養担当規則等に照らし、A・B以外の医学的理由により適当と認められないもの
D:告示・通知の算定要件に合致していないと認められるもの
F~K:点数誤り等事務上に関するもの

【補正・査定後内容】
J:縦覧点検。複数月にわたるレセプトの通覧点検により補正・査定された内容。


【査定事例1】令和7年3月分レセプト A査定


Q :上記の 『抗サイログロブリン抗体 136点 × 1』 、 『免疫学的検査判断料 144点×1』 がA査定となりました。どのような理由で査定されたのでしょうか。

A :甲状腺機能低下症が確定しておらず、 「(2)甲状腺機能低下症の疑い」 で、検査を実施しているため、査定されたと考えられます。
【根拠】甲状腺機能低下症の診断ガイドラインに示される検査所見では、FT4低値(参考としてFT3低値)およびTSH高値で甲状腺機能低下症の診断が確定後に、抗サイログロブリン抗体検査は実施します。

【査定事例2】橋本病が原疾患の場合
抗サイログロブリン抗体が陽性となることがあり、甲状腺機能低下症疑いで抗サイログロブリン抗体を実施することは「適当ではない」と判断されています。

●Point:ガイドラインを確認しましょう
①日本臨床検査医学会 「臨床検査のガイドライン2005/2006」
抗サイログロブリン(Tg)抗体検査は、機能低下(FT4↓、FT3↓または→、TSH↑)の場合に実施する。


図:甲状腺機能検査から診断まで

②日本甲状腺学会 「甲状腺機能低下症の診断ガイドライン2024」 (2024年11月21日改定)
甲状腺機能低下症の診断基準(コンセンサス)

【検査所見】
遊離FT4低値(参考として遊離FT3低値)およびTSH高値

【付記】
(検査所見について)
慢性甲状腺炎(橋本病)が原因の場合、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)または抗サイログロブリン抗体(TgAb)陽性となる。

≪参考≫
【支払基金・国保統一事例】抗サイログロブリン抗体半定量又は抗サイログロブリン抗体(バセドウ病等)の算定について
①次の傷病名※に対するD014 「3」 抗サイログロブリン抗体半定量又は「10」抗サイログロブリン抗体の算定は、原則として認められる。
⑴ バセドウ病(初診時又は診断時)
⑵ 甲状腺機能亢進症(初診時又は診断時)
⑶ 慢性甲状腺炎・橋本病(初診時又は診断時)
⑷ 甲状腺機能低下症(初診時又は診断時)
⑸ 無痛性甲状腺炎(初診時又は診断時)
②次の傷病名に対するD014 「3」 抗サイログロブリン抗体半定量又は「10」 抗サイログロブリン抗体の算定は、 原則として認められない。
⑴ 甲状腺機能異常(経過観察時(定期チェック))
⑵ 亜急性甲状腺炎(経過観察時(定期チェック))
⑶ 急性化膿性甲状腺炎

【取扱い作成の根拠】
バセドウ病や橋本病(慢性甲状腺炎)などの自己免疫性甲状腺疾患において、自己免疫異常の存在や程度を知る目的で実施されることから、当該疾患の初診時又は診断時に必要と判断される。
一方、自己免疫異常が見られない甲状腺機能異常、急性化膿性甲状腺炎においては臨床的有用性は低い。
※疑い病名ではありません
「支払基金における審査の一般的な取扱い(医科)(第23回)」 (令和7年4月30日)


【2025. 6. 15 Vol.3 メディカル・マネジメント】