保険薬局

対話とリーダーシップ

薬局経営に求められる組織開発
株式会社pharmake 代表取締役社長 田口 恵実
前回まで、変化をチャンスにする組織づくりについて考えてきました。小さな変化を積み重ねられる組織には、問いを出せる空気や、違和感を言葉にできる文化があること、その根っこには 「心理的安全性」 という土壌があるという話をしてきました。
では、そうした土壌を耕し、問いが生まれる場を育てていくうえで、リーダーはどんな役割を担っていくべきでしょうか。今回は 「対話とリーダーシップ」 という視点から、少し整理してみたいと思います。

リーダーに求められる「問いを引き出す力」

私たちはつい、リーダーには 「答えを与える力」 が必要だと考えがちです。確かに判断が必要な場面もありますが、現場で生きた知恵を育てていくには、リーダーがすべてを決めるのではなく、 「問いを引き出す力」 を持っていることが大切だと感じます。
たとえば、新人や若手と話す場面で、 「どうしたらいいと思う?」 と投げかけるだけでも、相手は自分なりに考え始めます。完璧な答えが出なくても構いません。 「まずは考えてみる」  「自分の意見を言葉にしてみる」 こと自体が、問いを持つ練習になります。
大事なのは、 「問いを出してもいいんだ」 という安心感です。対話を重ねる中で、組織全体に少しずつ “問いが回る文化” が広がっていきます。

方向性を共有する対話が、主体性を育てる

もちろん、問いばかりでは組織は前に進みません。方向性が見えないまま 「何でも考えていいよ」 と言われると、逆に不安になってしまうこともあります。
だからこそ、リーダーに求められるのは 「方向性の共有」 と 「問いの支援」 をセットで行うことだと思います。
たとえば薬局の現場でも、 「患者さんにとって安心できる服薬支援を目指そう」 といった目的が共有されていれば、スタッフはその方向性の中で自分なりの工夫や提案をしやすくなります。
方向性を伝えたうえで、 「どうしたらもっと患者さんに分かりやすく説明できそう?」  「今のやり方、何か引っかかるところある?」 と問いを投げる。こうした対話が積み重なることで、メンバーの中に 「自分が考えて動く」 感覚が育っていきます。
主体性は、任せるだけで生まれるものではありません。 「考える土俵」 を示し、 「考えていいんだよ」 と声をかけ続けること。そのセットが、リーダーの対話的な関わり方なのだと思います。

世代間ギャップを乗り越える対話

もう一つ、よく伺う声として 「考え方や学び方の違い」 のギャップがあります。経験年数や育ってきた時代背景によって、仕事への向き合い方にズレが生まれる場面は決して少なくありません。
特に近年は、テクノロジーの進化によって、物事に触れるスピードや情報の整理の仕方が大きく変わってきました。たとえば最近の若手スタッフは、気になることがあればすぐに検索し、短時間で要点にたどり着くスタイルが自然になっています。SNSやショート動画の人気も、短く整理された情報に慣れている表れかもしれません。
一方で、これまで現場経験を積み重ねてきた人たちは、 「まず全体像を把握し、じっくり理解してから進める」 ことを大切にしてきた感覚を持っています。どちらが良い悪いではなく、 「情報の整理の仕方」 が違っているだけとも言えます。
また、学び方に対する感覚の違いもあります。たとえば経験を重ねてきた人たちは 「現場で覚えながら体で学ぶのが自然なこと」 と感じてきたのに対して、若手の多くは 「きちんと説明を受けたうえで進めたい」  「途中でフィードバックをもらいながら整理したい」 と考える傾向があります。
こうした違いは、 「仕方ない」 と片付けてしまいがちですが、実は対話の仕方を少し工夫するだけで大きく変わっていきます。
たとえば若手には、 「背景や全体像も一緒に整理しておこうか」 と声をかける。経験を積んできたスタッフには、 「最近はこういう情報整理の仕方が主流になってきているみたいですよ」 と伝えてみる。こうしてお互いの考え方や感じ方を言葉に乗せていくことで、距離は自然と縮まっていきます。
お互いが少しだけ相手の立場で考えてみるだけで、こうした違いは驚くほど柔らかくなっていきます。対話が生まれれば、多くの違いはむしろ学び合いのきっかけになります。

おわりに

リーダーシップとは、すべてを決めることではなく、問いを引き出し、考える場をつくり出すこと。方向性を示しつつ、そこに向けた 「問い合い」 を仕掛けること。世代や価値観の違いを越えて、安心して話せる場を育てること。
日々の対話の積み重ねが、組織の柔軟性や変化の力を育むと思います。たった一言、 「これ、最近どう感じてる?」 という声かけが、新たな学びや工夫を生み出していくのです。
そして、こうした問い合い・考え合う対話を続けていくうちに、少しずつ 「その組織らしい空気感」 が形づくられていきます。次回は、その “文化” がどう育っていくのか、 「組織文化を醸成するには」 という視点で考えてみたいと思います。




【2025.8月号 Vol.4 Pharmacy-Management】