組織・人材育成

部下の指導とパワーハラスメント

人事・労務 ここは知っておきたい
株式会社ToDoビズ 代表取締役 篠塚 功
最近、芸能人がハラスメントによって引退しています。ちなみに、職場のハラスメントとして法律で規制されているのは、これまで①セクシャルハラスメント(セクハラ、男女雇用機会均等法)、②妊娠・出産育児休業等に関するハラスメント(マタハラ、男女雇用機会均等法、育児介護休業法)、③パワーハラスメント(パワハラ、労働施策総合推進法)の3種類でした。さらに、労働施策総合推進法の一部改正が6月に公布され、来年4月1日に施行されることにより、カスタマーハラスメントの防止についても、事業主に雇用管理上必要な措置が義務付けられます。そこで今回は、ハラスメントについて確認し、特にマネジメント上で重要な部下の指導とパワハラについて考えます。

セクハラ、マタハラの定義と内容

セクハラとは、職場において行われる、労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応により、その労働者が労働条件について不利益を受けたり、性的な言動により就業環境が害されることを言います。具体的には、対価型セクハラと環境型セクハラに分けられます。例えば、性的な要求に応じなければ、特殊な医療技術を教えないといったことは対価型セクハラであり、医療技術を教える中で、不必要に身体に触れ、相手が苦痛に感じる場合が環境型セクハラになります。
マタハラとは、職場で行われる上司・同僚からの言動により、妊娠・出産した女性労働者や育児休業等を申出・取得した男女労働者の就業環境が害されることを言います。「妊婦はいつ休むか分からない」と妊娠したことに対して嫌がらせを言ったり、育児休業を取得する男性に、「男のくせに育児休業を取るのか」と制度の利用に対して嫌がらせをしたりすることはマタハラになります。
ハラスメントを防止するために事業主が講ずべき措置として、①事業主の方針の明確化及びその周知・啓発、②相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、③職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応、④併せて講ずべき措置として、当事者等のプライバシー保護等が挙げられます。例えば、セクハラについては、プライバシーに配慮しつつ、行為者に厳正に対処すべきです。どのような行為がセクハラに該当するかは、職員も多少は分かっているはずですから、それを行わないでもらえばよいのです。マタハラについては、育児休業法等を管理職に説明し、労働者の権利であることを認識してもらう必要があります。

パワハラの6類型と部下への指導

この2つのハラスメントはやってはいけないことが明確であり、やらなければよいと考えますが、パワハラについては、部下への指導との境界線が難しいように感じます。部下を持つ役職者の重要な役割は、部下を指導し育成することにあります。場合によっては、厳しく注意する必要もあるでしょう。パワハラになることを恐れて部下を指導できない役職者が増えては、組織の発展にも影響します。
そこで、パワハラの定義を確認すると、 「職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業関係が害されるものであり、①~③までの要素をすべて満たすもの」 となっています。すなわち、業務上必要かつ相当な範囲の指導であれば問題ないわけです。このことは部下育成においても重要です。明らかに不必要なことまで指導しては、部下の反感を買い、信頼関係を築くことはできませんから、パワハラ以前に指導の仕方として問題です。
厚労省はパワハラに該当する6類型を示し、該当する例と該当しない例を示しています。項目だけ列挙すると、 「①身体的な攻撃(暴行・傷害)、②精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)、③人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無 視)、④過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)、⑤過小な要求(業務上の合理性がなく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)、⑥個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)」です。精神的な攻撃で該当しない例として、企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して、一定程度強く注意することなどが挙げられています。強く注意したから即パワハラになるわけではありません。しかし、仕事のできる人ほど、部下の失敗を許せず、程度を超えて注意をする傾向にあるように感じます。パワハラ防止を意識して、常に冷静に、部下の意欲を引き下げない一定程度の注意にとどめるべきでしょう。
ハラスメントのない、職員が安心して働ける職場環境を作ることは、職員の採用や定着にもつながり、法で規制されなくても、当然取り組むべきことです。これからの病・医院の存続において重要な活動と言えます。


【2025年8月1日号 Vol.7 メディカル・マネジメント】