保険薬局
AIの進化と調剤薬局の未来像
AIの進化と調剤薬局の未来像
株式会社iMus 代表取締役社長 薬剤師 安田 幸一
AI(人工知能)のめざましい進歩は、医療業界全体に深い変革をもたらしつつあります。診断や治療の支援にとどまらず、医療者の働き方、患者とのコミュニケーション、さらには薬局の薬剤師の職能のあり方に至るまで、広範囲に影響が及び始めています。特に近年では、ChatGPTやGeminiといった高度な生成AIの登場により、私たちの現場はかつてないスピードで変化を遂げようとしています。
AIは大きく3つに分類されます。
まず「特化型AI(Narrow AI)」です。これは現在最も広く実用化されており、画像診断支援、音声入力、処方監査など、特定のタスクに特化して高い精度を発揮するものです。調剤薬局では、服薬指導支援システムや調剤ピッキングロボット、薬歴作成補助といった形で導入が進んでいます。
次に「汎用AI(AGI)」と呼ばれる、人間のように柔軟な思考や判断を行えるAIです。AGIはまだ研究段階にありますが、将来的には患者の病態に応じて処方を提案したり、複雑な薬物治療計画を自律的に立てることのできる存在へと進化する可能性があります。
さらに 「超知能AI(ASI)」 は、人間の知能を遥かに超えた存在です。いわゆる 「シンギュラリティ(技術的特異点)」 の到来を象徴するAIで、医療・薬学研究や公衆衛生政策の設計にまで影響を及ぼすと予測されます。そこではもはや人間の知識や直感を超えたレベルで情報が整理され、最適解が導き出されるでしょう。
AIの歴史を振り返ると、1950年代にその概念が構想され、1980年代にはエキスパートシステムが登場しましたが、当時は処理能力やデータの限界から限定的な活用に留まりました。その後、2010年代にディープラーニングが急速に進化し、画像診断や処方支援など医療分野で本格的な実用化が進行。2020年代にはChatGPT、Geminiをはじめとする生成AIが台頭し、自然言語での情報生成や対話が容易になりました。現在では、薬局においても服薬指導文書や薬歴の自動生成、患者との会話支援に活用が広がりつつあります。
こうしたAIの進化を受けて調剤薬局がこれから大きく変化していくであろう点として、私は3つの方向性を挙げたいと思います。
まず一つ目は 「業務の自動化・効率化」 です。処方監査や調剤のピッキング、在庫管理、薬歴入力といった定型業務の多くは、AIやロボティクスで代替可能になりつつあります。これによりヒューマンエラーが減少し、待ち時間短縮や生産性の向上が実現するでしょう。
二つ目は 「服薬指導・コミュニケーションの質の高度化」 です。生成AIは、患者の服薬状況や病態、ライフスタイルに合わせて、個別化された説明資料を作成できます。また、音声認識や多言語対応が進むことで、外国人患者や高齢者への支援も強化されます。薬剤師はAIが生成する情報をベースに、より 「対話」 と 「共感」 に注力できるようになるでしょう。
三つ目は 「地域連携・フォローアップの進化」 です。外来医療、在宅医療や地域包括ケアにおいて、AIが患者の服薬アドヒアランスやバイタル情報をモニタリングし、異常を検知して即座に医療者へアラートを送る仕組みが普及する可能性があります。薬局は単なる調剤の場ではなく、生活支援のハブとしての役割を担うようになるかもしれません。
こうした未来像が現実味を増す背景には、AIの高精度な情報処理能力がある一方で、 「人間にしかできない価値」 がますます問われるという現実があります。
たとえば、患者が薬を正しく服用できない理由に潜む心理的・社会的背景を丁寧にくみ取る力。病気とともにどう生きたいか、人生観や価値観に寄り添った薬物療法を支える力。医師や看護師、ケアマネジャーと協働し、多職種を橋渡しする調整力。これらは、どれほどAIが進化しても置き換えがたい 「人間らしさ」 だと思います。
一方で課題も多く残ります。AIが提案した内容の責任の所在はどこにあるのか。AIを使いこなせる薬剤師とそうでない薬剤師の間で業務効率や質の格差が広がる恐れもあります。AI導入を 「単なる業務置き換え」 と捉えれば、薬剤師の存在意義自体が危うくなるかもしれません。こうした懸念は、まさに技術進化の 「諸刃の剣」 と言えます。
だからこそ、シンギュラリティの時代が訪れるかもしれない今、薬局が「薬を渡すだけの場」であればAIに取って代わられるのは必然です。しかし、患者や地域の暮らしに寄り添い、 「その人らしい生き方」 を支える拠点となるなら、薬剤師の専門性と存在価値はこれまで以上に求められていくはずです。
私たち医療者に今求められているのは、AIの進化を恐れることではなく、むしろ私たち薬剤師(人間ですね)にしかできない本質的な価値を問い直し、磨き続けることではないでしょうか。AIと共存しながら、薬剤師としての新たな価値創造に挑む時代が始まっているのです。
【2025.8月号 Vol.4 Pharmacy-Management】
AIは大きく3つに分類されます。
まず「特化型AI(Narrow AI)」です。これは現在最も広く実用化されており、画像診断支援、音声入力、処方監査など、特定のタスクに特化して高い精度を発揮するものです。調剤薬局では、服薬指導支援システムや調剤ピッキングロボット、薬歴作成補助といった形で導入が進んでいます。
次に「汎用AI(AGI)」と呼ばれる、人間のように柔軟な思考や判断を行えるAIです。AGIはまだ研究段階にありますが、将来的には患者の病態に応じて処方を提案したり、複雑な薬物治療計画を自律的に立てることのできる存在へと進化する可能性があります。
さらに 「超知能AI(ASI)」 は、人間の知能を遥かに超えた存在です。いわゆる 「シンギュラリティ(技術的特異点)」 の到来を象徴するAIで、医療・薬学研究や公衆衛生政策の設計にまで影響を及ぼすと予測されます。そこではもはや人間の知識や直感を超えたレベルで情報が整理され、最適解が導き出されるでしょう。
AIの歴史を振り返ると、1950年代にその概念が構想され、1980年代にはエキスパートシステムが登場しましたが、当時は処理能力やデータの限界から限定的な活用に留まりました。その後、2010年代にディープラーニングが急速に進化し、画像診断や処方支援など医療分野で本格的な実用化が進行。2020年代にはChatGPT、Geminiをはじめとする生成AIが台頭し、自然言語での情報生成や対話が容易になりました。現在では、薬局においても服薬指導文書や薬歴の自動生成、患者との会話支援に活用が広がりつつあります。
こうしたAIの進化を受けて調剤薬局がこれから大きく変化していくであろう点として、私は3つの方向性を挙げたいと思います。
まず一つ目は 「業務の自動化・効率化」 です。処方監査や調剤のピッキング、在庫管理、薬歴入力といった定型業務の多くは、AIやロボティクスで代替可能になりつつあります。これによりヒューマンエラーが減少し、待ち時間短縮や生産性の向上が実現するでしょう。
二つ目は 「服薬指導・コミュニケーションの質の高度化」 です。生成AIは、患者の服薬状況や病態、ライフスタイルに合わせて、個別化された説明資料を作成できます。また、音声認識や多言語対応が進むことで、外国人患者や高齢者への支援も強化されます。薬剤師はAIが生成する情報をベースに、より 「対話」 と 「共感」 に注力できるようになるでしょう。
三つ目は 「地域連携・フォローアップの進化」 です。外来医療、在宅医療や地域包括ケアにおいて、AIが患者の服薬アドヒアランスやバイタル情報をモニタリングし、異常を検知して即座に医療者へアラートを送る仕組みが普及する可能性があります。薬局は単なる調剤の場ではなく、生活支援のハブとしての役割を担うようになるかもしれません。
こうした未来像が現実味を増す背景には、AIの高精度な情報処理能力がある一方で、 「人間にしかできない価値」 がますます問われるという現実があります。
たとえば、患者が薬を正しく服用できない理由に潜む心理的・社会的背景を丁寧にくみ取る力。病気とともにどう生きたいか、人生観や価値観に寄り添った薬物療法を支える力。医師や看護師、ケアマネジャーと協働し、多職種を橋渡しする調整力。これらは、どれほどAIが進化しても置き換えがたい 「人間らしさ」 だと思います。
一方で課題も多く残ります。AIが提案した内容の責任の所在はどこにあるのか。AIを使いこなせる薬剤師とそうでない薬剤師の間で業務効率や質の格差が広がる恐れもあります。AI導入を 「単なる業務置き換え」 と捉えれば、薬剤師の存在意義自体が危うくなるかもしれません。こうした懸念は、まさに技術進化の 「諸刃の剣」 と言えます。
だからこそ、シンギュラリティの時代が訪れるかもしれない今、薬局が「薬を渡すだけの場」であればAIに取って代わられるのは必然です。しかし、患者や地域の暮らしに寄り添い、 「その人らしい生き方」 を支える拠点となるなら、薬剤師の専門性と存在価値はこれまで以上に求められていくはずです。
私たち医療者に今求められているのは、AIの進化を恐れることではなく、むしろ私たち薬剤師(人間ですね)にしかできない本質的な価値を問い直し、磨き続けることではないでしょうか。AIと共存しながら、薬剤師としての新たな価値創造に挑む時代が始まっているのです。
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