組織・人材育成
「さっき言ったじゃないですか」 「前に言いましたよね?」
組織力が高まるケーススタディ
株式会社メディフローラ 代表取締役 上村 久子
どんな規模の組織でも、複数の人が一緒に仕事を行う空間では、自分ではない他人と仕事をしているのですから、自分が想定していないさまざまな事象が起こるのは当然です。とはいえ、客観的に考えたら納得できることでも、いざ自分の身に想定外のことが起こると 「自分ではない他の人が問題だから起こったのではないか」 といった気持ちが自然と湧き出てきた経験はありませんか?今回は 「よく考えてみれば憤ることではないのに、相手を責めてしまうことがある」 と気づいたリーダーのお話を紹介いたします。
ケース
とある整形疾患を扱うクリニックのお話です。このクリニックのA院長先生はスタッフとの人間関係に悩み、筆者に相談に訪れました。
A院長先生 「私は開業したばかりです。これまでは勤務医として総合病院で勤めていました。その病院の院長先生と意見が合わなかったこと、そして自分の組織を持ってみたいと夢に見ていたこともあり、開業することにしました。開業するにあたり、あまり良いことではないと思いながらも、その総合病院で働いていた看護師やリハセラピストに 『私のクリニックで一緒に働かないか?』 と声を掛けて、引き抜くことができました。そのため、新規開業とはいえ、知っているスタッフと一緒にスタートを切ることができたので、特に人間関係には困らないと思っていました。実際、スタート時は私を含めてスタッフ全員がクリニックの経営について右も左も分からない状態でしたが、少しずつ手を取り合い、試行錯誤しながら仕事に慣れていくことができました」
筆者 「院長先生としては良いスタートが切れたのですね。しかし今では人間関係に困っていると伺っていますが、具体的にどのような 『おや?』 があったのでしょうか」
A院長先生 「人間関係の歯車がズレてきたのは、患者数が増えてきたことで採用した新人が加わったことがきっかけだと思います。クリニック勤務経験があり、若くて要領が良さそうな人を新人として1名採用しました。当院は開業したてのクリニックです。少数で上手に業務を回していかないと患者さんに迷惑が掛かってしまい、そのことが当院の評判に悪い影響を与えかねません。そのため、採用人数は1名に絞り、確実に覚えてもらって早くうちの主力になってもらおうと考えたのです。ただ、この採用が失敗だったのかな……。忙しいので教える時間があまり多く取れないことを伝えていたのですが、覚えが悪いのです。同じことを何度も言う羽目になり、思わずイライラしてしまうことも増えました。私だって 『それは前にも言ったじゃないか!』 なんて言いたくないですよ」
筆者 「それは大変ですね。その新人さんは入職されてどのくらい経ったのですか?」
A院長先生 「2か月目に入りました。確かにスタートメンバーはできる人たちばかりだったとは思いますが、新人スタッフの成長しない具合にどうしたら良いのか……。何より既存スタッフが優しすぎるというか、手取り足取り丁寧に対応しているのも新人スタッフにとって決して良くない状況だと思うのです。既存スタッフにはそのことも伝えているのですが要領を得ない返事が返ってきている状況です」
筆者 「そうなのですね。ちなみにA先生が開業されて上手く業務が回るようになるまではどのくらいかかりましたか?」
A院長先生 「そうですね、3か月はかかったと思います。ゼロからのスタートでしたから、みんなで試行錯誤し、協力して何とかここまで業務フローなど確立させることができました」
筆者 「そうなのですね。今までとは異なる環境ですから業務に慣れるまでは時間がかかりますよね。ちなみに 『前にも言ったよね?』 と発言されるとありましたが、それを言ったことで何か良い変化はありましたか?」
A院長先生 「それは……反省を促すものだと思ったのですが、言っても改善しているわけではなく、私のイライラが余計に募っただけかも……。そして新人スタッフは反省よりも怒られた恐怖や不快感が募るのか……?」
A院長先生は黙り込んでしまいました。
その後、このやり取りにコッソリ聞き耳を立てていたクリニックの既存スタッフBさんに声を掛けられました。
Bさん 「ありがとうございました。 『前にも言ったじゃないか!』 なんて言っても改善するわけないって、そういうことって言われないと分からないんですね」
筆者 「自分で気が付くって難しいことなのかもしれませんね」
このケース、どのような感想を持ちましたか?他の人から見ると 「そんな言い方しなくてもいいのに」 と思っても、伝えた本人は何の疑問を持たないことはよくあると思います。このケースのA院長先生は 「前にも言った!(それなのにできていない)」 という言葉を口癖のように使っていたことで、スタッフの心が離れてしまったようです。
皆さまはよく言葉にするフレーズはありますか?それが組織に与える影響を考えてみたことはありますか?このケースを参考に、ぜひご自身が使われる発言に注意していただけると、スタッフとの関係性が変化してくるかもしれませんよ!
【2025. 6. 1 Vol.3 メディカル・マネジメント】
A院長先生 「私は開業したばかりです。これまでは勤務医として総合病院で勤めていました。その病院の院長先生と意見が合わなかったこと、そして自分の組織を持ってみたいと夢に見ていたこともあり、開業することにしました。開業するにあたり、あまり良いことではないと思いながらも、その総合病院で働いていた看護師やリハセラピストに 『私のクリニックで一緒に働かないか?』 と声を掛けて、引き抜くことができました。そのため、新規開業とはいえ、知っているスタッフと一緒にスタートを切ることができたので、特に人間関係には困らないと思っていました。実際、スタート時は私を含めてスタッフ全員がクリニックの経営について右も左も分からない状態でしたが、少しずつ手を取り合い、試行錯誤しながら仕事に慣れていくことができました」
筆者 「院長先生としては良いスタートが切れたのですね。しかし今では人間関係に困っていると伺っていますが、具体的にどのような 『おや?』 があったのでしょうか」
A院長先生 「人間関係の歯車がズレてきたのは、患者数が増えてきたことで採用した新人が加わったことがきっかけだと思います。クリニック勤務経験があり、若くて要領が良さそうな人を新人として1名採用しました。当院は開業したてのクリニックです。少数で上手に業務を回していかないと患者さんに迷惑が掛かってしまい、そのことが当院の評判に悪い影響を与えかねません。そのため、採用人数は1名に絞り、確実に覚えてもらって早くうちの主力になってもらおうと考えたのです。ただ、この採用が失敗だったのかな……。忙しいので教える時間があまり多く取れないことを伝えていたのですが、覚えが悪いのです。同じことを何度も言う羽目になり、思わずイライラしてしまうことも増えました。私だって 『それは前にも言ったじゃないか!』 なんて言いたくないですよ」
筆者 「それは大変ですね。その新人さんは入職されてどのくらい経ったのですか?」
A院長先生 「2か月目に入りました。確かにスタートメンバーはできる人たちばかりだったとは思いますが、新人スタッフの成長しない具合にどうしたら良いのか……。何より既存スタッフが優しすぎるというか、手取り足取り丁寧に対応しているのも新人スタッフにとって決して良くない状況だと思うのです。既存スタッフにはそのことも伝えているのですが要領を得ない返事が返ってきている状況です」
筆者 「そうなのですね。ちなみにA先生が開業されて上手く業務が回るようになるまではどのくらいかかりましたか?」
A院長先生 「そうですね、3か月はかかったと思います。ゼロからのスタートでしたから、みんなで試行錯誤し、協力して何とかここまで業務フローなど確立させることができました」
筆者 「そうなのですね。今までとは異なる環境ですから業務に慣れるまでは時間がかかりますよね。ちなみに 『前にも言ったよね?』 と発言されるとありましたが、それを言ったことで何か良い変化はありましたか?」
A院長先生 「それは……反省を促すものだと思ったのですが、言っても改善しているわけではなく、私のイライラが余計に募っただけかも……。そして新人スタッフは反省よりも怒られた恐怖や不快感が募るのか……?」
A院長先生は黙り込んでしまいました。
その後、このやり取りにコッソリ聞き耳を立てていたクリニックの既存スタッフBさんに声を掛けられました。
Bさん 「ありがとうございました。 『前にも言ったじゃないか!』 なんて言っても改善するわけないって、そういうことって言われないと分からないんですね」
筆者 「自分で気が付くって難しいことなのかもしれませんね」
このケース、どのような感想を持ちましたか?他の人から見ると 「そんな言い方しなくてもいいのに」 と思っても、伝えた本人は何の疑問を持たないことはよくあると思います。このケースのA院長先生は 「前にも言った!(それなのにできていない)」 という言葉を口癖のように使っていたことで、スタッフの心が離れてしまったようです。
皆さまはよく言葉にするフレーズはありますか?それが組織に与える影響を考えてみたことはありますか?このケースを参考に、ぜひご自身が使われる発言に注意していただけると、スタッフとの関係性が変化してくるかもしれませんよ!
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