保険薬局

在宅療養支援診療所薬剤師として、薬局と共に地域を支える ~事務長の視点と現場力~

在宅医療の羅針盤
在宅療養支援診療所薬剤師連絡会 理事 在支診薬剤師 岡崎 理絵

薬剤師から始まった私の医療キャリア

私は在宅療養支援診療所に薬剤師として入職しました。日々の業務を通じて、多職種連携の重要性や、患者さん一人ひとりに寄り添う医療の意義を実感する一方で、診療所運営におけるさまざまな課題にも直面するようになりました。入職後半年ほど経過した頃に、事務長という職を兼務してみるのはどうかと声がかかり、事務長を兼務する道を選びました。

経営視点の必要性に気づき、学びを実践へ

事務長業務を始めてから、医療経営やマネジメントに関する知識不足を痛感しました。診療報酬改定や、多職種が集まった医療機関ならではの課題に直面するなかで、体系的な学びが不可欠だと考え、医療経営士の資格を取得。さらに、仕事を続けながら大学院へ進学し、医療管理学修士を取得しました。これらの学びを通じて、経営数値に基づく診療戦略の立案や、スタッフの働きやすい環境作りに役立つ知見を現場へフィードバックすることができました。

 「薬剤師×事務長」 の相乗効果

薬剤師としての臨床感覚と、事務長としての経営感覚。この二つを併せ持つことで、診療所運営に大きな相乗効果が生まれました。例えば、医薬品や医療材料の選定や在庫管理においてコストと治療効果のバランスを意識した管理運用方法を立案。また、タスクシフトによる業務効率向上、スタッフへの教育やスキル向上を目的とする人事評価やラダー評価者としてもかかわっています。現場で得た実感を経営に活かすことで、医療の質と経営の持続性を同時に高めることが可能となったと考えています。
これにより、スタッフ間の信頼関係やチームワークも向上し、患者さんに対してより一体感のある医療提供が実現できるようになりました。こうした積み重ねが、地域に根ざした医療機関としての信頼にもつながっていると感じています。

地域とつながる在宅医療のハブとして

在宅療養支援診療所として、地域包括ケアシステムの中核を担うためには、地域との連携が不可欠です。私は、薬局や訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所や地域包括支援センターと密に連携し、地域の患者さんを包括的に支える体制構築に力を注いできました。特に、地域の薬局薬剤師と連携を強化し、処方薬の情報共有や服薬指導の一貫性確保など、実務レベルでの調整役・ハブ的な役割を果たしていきたいと考えています。
新規の在宅医療の患者さんへの訪問服薬指導を依頼する際には、特定保険医療材料の処方について事前に薬局と情報共有を行い、在庫の確保をお願いすることで、患者さんにとってスムーズな療養支援が行えるよう努めています。また、特に悪性腫瘍の患者さんに対する医療用麻薬の処方時には、用量・剤形・供給体制などについて事前に密に連携し、安全で確実な薬物療法が提供できるようにしています。
私自身、10年近く薬局薬剤師として地域医療に携わってきた経験があり、そのときに得た現場感覚や課題意識は、現在の診療所における薬局との調整業務に大いに役立っています。現場を知る者同士、同じ目線で会話ができることで、より信頼性の高い連携が実現できていると感じています。
また、私は教育担当として、地域医療実習に来る研修医の調整窓口も務めています。その中で、地域の薬局薬剤師の職能理解を深めてもらうため、研修医が実際に地域の薬局を訪問し、現場での業務を見学・体験できる機会を提供しています。こうした取り組みが、将来の医師と薬剤師の相互理解を育み、地域医療全体の連携強化につながると信じています。
医療・介護従事者向けの研修を企画実行し、ときには講師を務めるなど、地域医療の質向上にも貢献しています。医療経営士として得た知識を活かし、地域全体を見据えたマネジメントにも取り組んでいます。
また、製薬会社や医師会、その他さまざまな団体が主催する講演会などにも積極的に関与し、在宅医療の理解を深めてもらうための診療所の枠を越えた活動も展開しています。地域とのつながりを深めることで、医療資源の最適配分や情報共有のスムーズ化といった面でも着実な成果を実感しています。

医療の未来に向けて: 「現場×経営」 をつなぐ役割

薬剤師であり、事務長でもある私の立場は、専門性と総合性を兼ね備えた希少な存在だと思いますが、あわせて大きなチャンスだと考えています。これからの診療所経営には、現場感覚と経営戦略の両方を持ったリーダーが求められます。私はこれからも、患者さん一人ひとりに最適な医療を届けると同時に、組織全体の持続可能性を高めるために、学び続け、実践し続けていきたいと考えています。
地域医療に貢献しながら、持続可能な医療機関経営を実現する。このビジョンを、多くの医療経営者や医療従事者の皆様と共有し、共に未来を切り拓いていきたいと思います。


【2025.6月号 Vol.2 Pharmacy-Management】