保険薬局

2025年薬機法改正を踏まえた薬局に求められる変革 ~薬機法等制度改正に関するとりまとめから読み解く~

薬局経営の今とこれから
株式会社iMus 代表取締役社長 薬剤師 安田 幸一
2025年(令和7年)の薬機法改正は、日本の医療・医薬品提供体制における大きな転換点となります。本改正は、少子高齢化の急速な進展、デジタル技術の飛躍的発展、医薬品供給体制の脆弱性の顕在化など、多様な社会環境の変化に対応するものです。この薬機法改正において薬局に求められている役割や対応について、令和7年1月10日の厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会で発表された 「薬機法等制度改正に関するとりまとめ」 ※1の内容を中心に整理します。

1.対人業務の充実と対物業務の効率化

改正の核心は、薬局が 「対物業務」 から 「対人業務」 へと機能をシフトさせることにあります。高齢化社会において、薬剤師には医薬品の調剤という技術的業務にとどまらず、患者一人ひとりの状態に合わせた服薬指導や薬学的管理、そして健康相談といった対人業務の充実が求められています。この実現のため、調剤業務の一部外部委託が制度化されます。薬局の所在地の都道府県知事等の許可を得ることで、調剤という対物業務の一部を外部に委託することが可能となり、薬剤師が対人業務に注力できる環境が整備されます。ただし、患者の安全確保のため、委託側・受託側の薬局における基準設定や責任関係の明確化が図られることになります。

2.デジタル技術の活用による医薬品アクセスの向上

情報通信技術の発展を踏まえ、薬局にはデジタル技術を活用した新たな医薬品提供体制の構築も求められています。具体的には、薬剤師等が常駐しない 「受渡店舗」 において、 「管理店舗」 の薬剤師等による遠隔での管理のもとで一般用医薬品を販売する仕組みが導入されます。また、オンライン服薬指導についても拡充が図られ、要指導医薬品も薬剤師の判断に基づきオンラインでの服薬指導による販売が可能となります。これらの改正は、医薬品へのアクセス向上と安全性確保の両立を目指すものです。

3.地域医療における薬局機能の明確化と強化

地域包括ケアシステムの中で薬局が果たすべき役割も明確化されます。地域連携薬局については、居宅等における情報提供および薬学的知見に基づく管理・指導を主要な機能として位置付け、地域の医療機関や他の薬局との連携強化が求められます。健康サポート薬局については、患者が継続して利用するために必要な機能および個人の健康保持増進への取組を積極的に支援する機能を有する薬局として明確化されます。これらの機能を持つ薬局として都道府県知事の認定を受けることで、地域住民がその特性を認識し、適切に活用できるようになります。

4.医薬品の適正使用の推進と安全管理の強化

薬局には医薬品の適正使用推進の役割も強く求められています。特に、処方箋なしでの医療用医薬品の販売は原則禁止とされ、緊急時や災害時などのやむを得ない場合にのみ例外的に認められるようになります。また、風邪薬等の濫用防止のため、濫用等のおそれのある医薬品については販売方法が厳格化されます。薬剤師等による購入状況確認や情報提供の義務付け、20歳未満への大容量製品販売禁止などの措置が講じられ、薬局にはこれらの規制に適切に対応することが求められます。

5.情報管理と記録保存の徹底

情報管理面でも変革が求められています。薬局機能情報提供制度の見直しにより、報告内容の透明性と活用性が高まります。また、調剤済み処方箋および調剤録の保存期間が3年から5年に延長されることで、医療機関の診療録保存期間との整合性が図られ、継続的な患者情報の管理が可能となります。

まとめ

2025年薬機法改正で薬局に求められているのは、単なる医薬品供給拠点からの脱却であり、対人業務を中心に据えた 「医療提供施設」 としての機能の確立です。デジタル技術の活用による効率化と医薬品アクセスの向上、地域医療における明確な役割の確立、そして医薬品の適正使用と安全管理の徹底という多面的な変革が求められています。これらの期待に応えるためには、薬局経営者と薬剤師の意識改革、必要な設備投資、人材育成、そして他の医療・介護関係者との緊密な連携構築が不可欠です。2025年の改正を単なる規制強化と捉えるのではなく、薬局・薬剤師の専門性と存在意義を社会に示す絶好の機会として活用し、真に患者と地域住民の健康に貢献する薬局への変革を加速させることが求められています。

※1:令和7年1月10日 厚生労働省 「薬機法等制度改正に関するとりまとめ」
 https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001371285.pdf


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