病院・診療所

「なかなか育たないスタッフ」を見捨てずに戦力化する方法

クリニック相談コーナー
合同会社MASパートナーズ 代表社員 原 聡彦

【相談内容】

近畿地方で開業8年目を迎える内科クリニックの院長・奥様より、次のようなご相談をいただきました。
「受付スタッフに、なかなか自立できない方がいます。当院に勤務して2年が経過しますが、常勤スタッフが一緒でないと業務が円滑に進められず、他の受付スタッフからも 『一緒に仕事がやりづらい』 という声が出ています。ただ、彼女は平日午後や土曜日といった貴重な時間帯に入ってくれる存在でもあり、退職されると当院としても非常に厳しい状況です。まずは個別面談を通じて本人の現状認識や今後の働き方について確認したいと考えています。面談の進め方や注意点を教えていただけますか?」

【回  答】

このような悩みには、慎重かつ戦略的な対応が求められます。長期間勤務しているスタッフへの対応は、クリニック全体の成長と本人の活躍を両立させる視点が不可欠です。以下、具体的なアプローチをまとめました。

1.面談の基本的な進め方
面談では、批判や指摘ではなく 「成長のきっかけを一緒に探る」 スタンスが大切です。以下のステップで進めてください。

1-1.感謝の気持ちを最初に伝える
 まずは彼女のこれまでの貢献に対して、素直な感謝を伝えましょう。
 「いつも平日午後や土曜日に勤務してくださり、本当に助かっています。まずはその感謝をお伝えしたくてお時間をいただきました」 
 この一言が、スタッフの心を開く鍵になります。

1-2.気になる点をやさしく共有する 
 次に、クリニック運営上、気になっている点を 「一緒に考えたい」 というニュアンスで伝えます。
 「最近、常勤スタッフが一緒でないと業務がスムーズに進まないという声が出ています。〇〇さんを責める意図ではなく、クリニック全体の運営をより良くするために、一緒に考えていければと思っています」

1-3.本人の思いをじっくり引き出す
 批判せず、本人の気持ちや困っていることを丁寧に聞き出しましょう。
 「今の働き方について、〇〇さん自身はどのように感じていますか?不安に思っていることや、うまくいかないと感じていることがあれば教えてください」

1-4.未来のビジョンを確認する
 前向きなテーマに移行し、本人が目指したい方向性や学びたいことを探ります。
 「将来的にはどのような働き方をしたいと考えていますか?特に、挑戦してみたい業務や、今困難に感じていることなどあれば聞かせてください」

1-5.現実的な目標を一緒に設定する
 最後に、無理のない範囲で小さな目標を一緒に立て、支援することを約束します。
 「少しずつでも成長できるように、〇〇さんに合わせたペースで取り組んでいきましょう」

2.経営者としての心構え
スタッフ指導に臨む際、院長・奥様が持つべき心構えを整理します。

(1) 「この人なりの役割設計」 を考える
 本人に多くを求めず、 「この人なりの役割設計」 を考えましょう。
 例えば、
  • 「すべての受付業務を担当させる」 のではなく、
  • 「予約入力業務」「会計補助業務」 など、確実にできる業務に絞る
 といった形で段階的な成長を促します。

(2)他スタッフへの説明責任を果たす
 本人の育成を進めると同時に、周囲のスタッフへの配慮も忘れてはいけません。
 「〇〇さんには、まずはこの業務に専念してもらいます。皆さんにもフォローをお願いすることになりますが、ご協力をお願いします」 と、育成方針を共有し、チーム全体で支える文化をつくりましょう。

3.中長期的な組織づくり(リスクヘッジ)
今回のケース対応と並行して、クリニック経営の安定性を高める取り組みも必要です。

(1)特定スタッフへの依存から脱却する
 「このスタッフが退職すると困る」 という状況は、クリニック経営上の大きなリスクです。
 今後は、
  • 夜間・土曜勤務可能な人材の育成・採用
  • 複数名体制によるリスク分散
  • 業務標準化・マニュアル整備
 などを進め、誰か一人に頼らない体制を築きましょう。

(2)採用戦略の再構築
 特に午後・土曜日に勤務できる人材の確保に向け、採用条件やターゲットを見直します。
 主婦、大学生、ダブルワーク希望者など、柔軟な条件提示によって応募の間口を広げることが有効です。
 「午後だけ」  「土曜日だけ歓迎」 など明示することで、適した人材を惹きつけやすくなります。

【まとめ】

今回のようなケースは、本人を尊重しながらクリニック全体の健全運営も図る、絶好の成長機会です。
面談では、
  • 感謝を伝え
  • 現状を共有し
  • 本人の声を聴き
  • 未来志向で道筋を描く
ことを大切にしてください。

そして経営者としては、
  • 「役割設計」
  • 「チームへの説明」
  • 「依存しない体制作り」
を中長期視点で同時に進めることが不可欠です。
丁寧かつ戦略的なアプローチによって、本人の力を引き出し、クリニック全体の健全な成長へとつなげていきましょう。


【2025. 5. 15 Vol.2 メディカル・マネジメント】