病院・診療所

生産性向上の取り組みを加速させる2つのしかけ

データから考える医療経営
株式会社メディチュア 代表取締役 渡辺 優

■病院経営における人材確保の重要性は高まるばかり

病院の経営環境は極めて厳しい状況にある。その要因のひとつは医療従事者の不足にある。看護職員が確保できず病棟閉鎖するケースや、働き方改革の影響などにより医師が確保できず診療科を休診するケースなどを見聞きする。職業別有効求人倍率の推移を見ると、直近10年以上、看護師をはじめとした医療従事者は職業計の有効求人倍率を上回っている=グラフ1=。

グラフ1 職業別有効求人倍率(職業計と医療・介護の主な職業)の推移

厚生労働省 一般職業紹介状況(職業安定業務統計)を基に作成

人材確保はこの先の見通しも暗い。2024年の出生数は約72万人※で、比較可能な1899年以降で最少となったらしい。少子化が進めば、今後、ますます人材確保競争が激化することが想定される。
※厚生労働省 人口動態統計速報(令和6年12月分)

■生産性向上の取り組みが中長期的な病院経営の良し悪しの決め手になるのでは

少子化への対策としては、報酬面での適切な評価と生産性向上の2つを挙げる。報酬面では、専門性と業務負担に見合い、かつ他産業に見劣りしない賃金評価がなければ、少子化の局面で人材は十分確保できないだろう。しかし、2月の自民・公明・維新の3党合意で、 「国民医療費の総額を年間で最低4兆円削減する1)」 と言及している。
そのため、他産業で初任給30万円などのニュースを見聞きするものの、おそらく医療従事者の賃上げは一筋縄ではいかないだろう。賃上げが難しいだけに、生産性向上の重要性が相対的に高まる。中医協入院・外来医療等の調査・評価分科会の2025年度の実態調査において 「業務におけるICT(情報通信技術)の活用状況」 の質問が設定された。具体的には、音声入力システム、スマートフォンやインカム、AIを用いた患者状態の予測、電子問診・AI問診システム、搬送用ロボットの導入などの活用状況や、その効果や課題について回答するようになっている2)。
この調査の先に、何があるか考える上で参考になるのは、介護報酬の生産性向上推進体制加算である。2024年度改定で新設されたこの加算は、離床センサーなどの見守り機器、インカム等のコミュニケーションICT機器、記録効率化のICT機器の活用が要件となっている。老健ではすでに5%近い施設が加算(I)を届け出ており、加算(II)と合わせると3割を超える=グラフ2=。

グラフ2 生産性向上推進体制加算 届出状況

※介護サービス情報公表システムにおいて生産性向上推進体制加算の届出あり・なしの記載がある施設(約26,000施設)を対象 厚生労働省 介護サービス情報 公表システムの情報を基に作成

介護施設は病院同様、職員確保が大きな課題である。グラフ1で見たように介護サービスの有効求人倍率は高い状態が続いている。そのため、生産性向上推進体制加算により働きやすい職場作りを目指しているのだろう。もし中医協の調査でICT活用により生産性向上が図られているのであれば、その取り組みを加速するために、介護報酬同様、病院にも加算
が新設される可能性は十分あるだろう。
そして、タブレット端末、離床センサー、インカム、WEB会議設備、床ふきロボット、監視カメラなどの機器や、施設内の業務効率化に資するもの(例:マイナンバーカードのカードリーダー、業務効率化に資する医療機器やロボット等)を支給対象とした給付金が、厚生労働省の 「生産性向上・職場環境整備等支援事業」 として実施される。
病院経営が厳しい中で、生産性向上に取り組むことが難しい病院は少なくないだろう。しかし、次期改定で新設されるかもしれない 「加算」 と、この 「給付金」 の2つのしかけが生産性向上の取り組みを後押ししてくれることに期待したい。

1)日本経済新聞 2025年2月26日朝刊
2)中央社会保険医療協議会 入院・外来医療等の調査・ 評価分科会(2025年4月17日開催)資料


【2025. 5. 15 Vol.2 メディカル・マネジメント】