保険薬局
医療DXと薬局の未来 〜進化するデジタル化の波と私たちの役割〜
薬局経営の今とこれから
株式会社iMus 代表取締役社長 薬剤師 安田 幸一
令和6年度の調剤報酬改定では、 「医療DX推進体制整備加算」 が新設され、薬局業界にも本格的にデジタルトランスフォーメーション(DX)の波が押し寄せています。さらに、令和7年4月1日より、マイナ保険証の利用率に応じた加算が導入され、以下のように点数が設定されました。
- 医療DX推進体制整備加算1:マイナ保険証利用率45%以上…10点
- 医療DX推進体制整備加算2: 同 30%以上…8点
- 医療DX推進体制整備加算3: 同 15%以上…6点
厚生労働省の発表によると、2024年10月末時点でのマイナンバーカード保有者は約9,449万人、人口の75.7%に達しています。一方、マイナ保険証の利用率は同年10月時点で15.67%、2025年1月には25.42%まで上昇したものの、その伸びは緩やかで、利用促進には依然として課題が残されています。
この背景には、経済産業省が推進するPHR(Personal Health Record)政策の影響もあります。PHRとは、診療記録や薬剤情報、健診結果などの健康に関する個人情報を、本人が生涯にわたり電子的に閲覧・管理できる仕組みを指します。
ここで重要なのは「本人が主導して管理する」という点です。
マイナ保険証を用いた医療情報の活用も、このPHRの考え方に基づいており、情報提供には 「本人の同意」 が必要とされています。そのため、制度の理解と利用者の同意を得るための啓発活動が重要となっています。
PHRの身近な例として 「お薬手帳」 が挙げられます。1993年に導入されたお薬手帳は、紙から電子へ移行しつつあるものの、今も多くの患者に広く利用されています。特に、1995年の阪神・淡路大震災や2011年の東日本大震災においては、お薬手帳の有無が治療に大きな影響を与えたことから、その重要性が再認識されました。こうした災害時にも有用であることが明らかとなり、患者の健康情報を継続的に把握する手段として不可欠なツールとなっています。
さて、医療分野におけるDX化の意義について改めて考えてみましょう。
医療におけるDX化とは、単なるIT導入にとどまらず、医療の質や安全性を高め、患者中心の医療を実現するための本質的な変革です。特に薬局では、電子薬歴の導入により過去の服薬履歴を即時に把握できるようになり、重複投薬の防止や副作用の回避に大きく貢献しています。また、オンライン服薬指導の普及は、通院が困難な患者の支援につながり、地域医療の質向上にも寄与しています。今後は、PHRと連携した服薬情報の一元管理や、AIによる投薬提案の高度化が期待されており、薬剤師の役割も“対物業務” から “対人業務” へと、より臨床的・専門的な方向へシフトしていくことが求められます。
経済産業省の定義によれば、DXとは 「企業がデータとデジタル技術を活用し、製品・サービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務や組織、企業文化を変え、競争上の優位性を確立すること」 とされています。
このDXは以下の3段階で進化していきます。
- デジタイゼーション(Digitization) 情報のデジタル化
- デジタライゼーション(Digitalization) 業務プロセスの効率化
- デジタルトランスフォーメーション (Digital Transformation) ビジネスモデルの変革と新たな価値創造
薬局における具体例として、①は紙の薬歴から電子薬歴への移行や、紙処方箋から電子処方箋への対応、電子おくすり手帳の導入が挙げられます。②は、調剤業務機器の導入による自動化や省力化、オンライン服薬指導の実施が該当します。そして③では、クラウド型薬歴、多職種連携ツール、BIツール(在庫管理・売上分析の可視化)などが、薬局の業務や提供価値そのものを変革しつつあります。
さらに今後は、生成AIを活用した薬歴記録の自動化や、リフィル処方箋への対応としての服薬スケジュールの自動調整など、新たなテクノロジーの活用が進展すると考えられます。
薬局におけるDX化の将来的な方向性としては、電子処方箋・電子薬歴・PHRを連携させた診療・服薬情報の統合管理によって、より効果的な減薬提案が可能になると期待されています。加えて、生成AIによる薬歴の要点整理や記録の自動化が実現すれば、薬剤師は本来担うべき対人業務に集中できるようになり、結果として、より質の高い医療サービスの提供につながっていくことでしょう。
【2025.5月号 Vol.1 Pharmacy-Management】
さらに今後は、生成AIを活用した薬歴記録の自動化や、リフィル処方箋への対応としての服薬スケジュールの自動調整など、新たなテクノロジーの活用が進展すると考えられます。
薬局におけるDX化の将来的な方向性としては、電子処方箋・電子薬歴・PHRを連携させた診療・服薬情報の統合管理によって、より効果的な減薬提案が可能になると期待されています。加えて、生成AIによる薬歴の要点整理や記録の自動化が実現すれば、薬剤師は本来担うべき対人業務に集中できるようになり、結果として、より質の高い医療サービスの提供につながっていくことでしょう。
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