組織・人材育成
機嫌が悪い?~自分の言動に責任を持つ~
組織力が高まるケーススタディ
株式会社メディフローラ 代表取締役 上村 久子
新入職員が入ってくると、大なり小なり組織の雰囲気は今までと変化するものです。今まではスタッフ同士協力し合って効率の良い業務が行えていたとしても、新人さんが入ってきたことで教育する時間が増えるなど、結果として今までと同じ効率を求めることができなくなることは起こり得ます。誰が悪いわけではないのですが、今まで上手くいっていたことが思うように進まない状況にいら立ってしまうことは感情として理解できる一方で、その感情を他者に向けてしまうことで与える負の影響は見逃せません。今回は季節が移り変わり、感情が揺らぎやすいこの時期に、自分の感情と表出方法について考える機会を得たリーダーの話をお伝えいたします。
ケース
ある日、Aクリニックで筆者はスタッフの皆さまの診療の様子を観察していました。A院長先生から 「クリニックの雰囲気を良くしたいので、日常の様子を知ってほしい」 という要望を受けたことが発端でした。
その日はA院長先生とパートのX医師の2名の医師が2診体制で診療を開始しました。他にスタッフは受付に1名、診察室に2名の看護師、そして入職間もない試用期間中の看護師1名という体制です。筆者はスタッフ導線で患者から見えない位置でスタッフの動きに注意を向けています。
連休明けということもあり、その日のクリニックはかなり込み合っていました。診察開始前から多くの患者が列をなしており、それを予想していたのか、はたまた休み明けで仕事に対して気分が乗りにくいのか、その日の朝のA院長先生の表情は明るいとは言いがたい様子。筆者に対して 「なんで今日を観察日にしてしまったんだろう……」 という言葉もありました。
最初の患者が診察を終え出ていくと同時に、診察室からパンッ!パンッ!という音が聞こえてきました。その音の正体は、A院長先生がカルテのファイルを机に叩きつける音でした。看護師は何度か叩きつけられて机に置かれたカルテを無表情で受け取ります。その間、A院長先生と看護師は会話を交わしたり、目線を合わせたりする様子はありません。その看護師の後ろで診察の様子を見ている試用期間中の看護師は、カルテを叩きつける音に驚いて居心地の悪そうな表情をしていましたが、その様子をA院長先生とベテラン看護師が気付いている様子はありませんでした。
しばらく患者を診ているとA院長先生は落ち着いてきたのか、カルテを机に叩きつけることはなくなってきました。そうして午前中の診察は診療時間を大きく超えて終了したのでした。
後日、A院長先生にフィードバックを行いました。院長先生の表情や発言、行動が実際にどのようなものか客観的に伝わるように院長先生を撮影した動画(事前了承済、患者・家族に関係する情報は映らないよう配慮したもの)も添えて報告しました。
A院長 「自分の様子をこうして客観的に見るのは何とも言えない気持ちになりますね。正直言って見たくないというか……実はスタッフから 『院長先生は機嫌の良し悪しで態度が大きく違う』 という指摘があり、試用期間中の看護師も 『院長先生が怖い』 と言っていたと別のスタッフから報告もあったのですが、自分では全く自覚がなく、本当かどうか知りたいと上村さんにお願いした背景があったのです。この時、私は機嫌が悪かったわけではないのですが、忙しくなると慌ててしまうので、慌ててミスをしないように気合を入れていたのかなと……無意識に行っていたのだと思います。しかし、表情も相まって怒っているように見えるかもしれませんし、この自分には声を掛けにくいですね。自分は親しみやすいだろうと思い込んでいましたが、自分がクリニックの雰囲気を良くない方向に引っ張ってしまっていたことに気が付きました……」
しばらく唖然としていたA院長先生でしたが、組織をより良くしたい覚悟は本物。その後、A院長先生はスタッフに対し 「自分の言動に責任を持つ」 と、これまでの言動を謝罪するとともに、自分とスタッフがやり取りしている様子の動画の録画を積極的に行うようになったのでした。そのA院長先生の変化にスタッフは動揺したとのことですが、A院長先生の本気度合いがスタッフに徐々に伝わっていったことで、スタッフも巻き込んだより良い組織づくりが行われています。
このケース、どのような感想を持ちましたか?院長先生を日頃から支えるスタッフから 「院長先生の機嫌により組織の雰囲気が乱高下する」 という声を耳にすることは少なくありませんが、一方で自分自身が(本当に機嫌が悪いかどうかに関わらず)機嫌が悪いように見える振る舞いをしている自覚のあるリーダーは多くないようです。つまり、機嫌が悪い振る舞いと本当に機嫌が悪いかどうかは関係ないのです。
「今、機嫌が悪いですか?」 とわざわざ確認する人はあまりいないと思いますし、実際に言われたとしても 「そう言われて機嫌が悪くなった!」 となってしまう場合もあると思います。従って、自分の立ち居振る舞いが相手にどういう影響を与えるのかは、自分自身で振り返ったほうが素直な行動変容に繋がりやすいと考えます。誰も、機嫌の悪く見える人と積極的に一緒にいたいとは思わないものです。そうであれば、ご自身の言動がどう見えるのか、振り返ってみてはいかがでしょうか?
【2025. 5. 1 Vol.1 メディカル・マネジメント】
その日はA院長先生とパートのX医師の2名の医師が2診体制で診療を開始しました。他にスタッフは受付に1名、診察室に2名の看護師、そして入職間もない試用期間中の看護師1名という体制です。筆者はスタッフ導線で患者から見えない位置でスタッフの動きに注意を向けています。
連休明けということもあり、その日のクリニックはかなり込み合っていました。診察開始前から多くの患者が列をなしており、それを予想していたのか、はたまた休み明けで仕事に対して気分が乗りにくいのか、その日の朝のA院長先生の表情は明るいとは言いがたい様子。筆者に対して 「なんで今日を観察日にしてしまったんだろう……」 という言葉もありました。
最初の患者が診察を終え出ていくと同時に、診察室からパンッ!パンッ!という音が聞こえてきました。その音の正体は、A院長先生がカルテのファイルを机に叩きつける音でした。看護師は何度か叩きつけられて机に置かれたカルテを無表情で受け取ります。その間、A院長先生と看護師は会話を交わしたり、目線を合わせたりする様子はありません。その看護師の後ろで診察の様子を見ている試用期間中の看護師は、カルテを叩きつける音に驚いて居心地の悪そうな表情をしていましたが、その様子をA院長先生とベテラン看護師が気付いている様子はありませんでした。
しばらく患者を診ているとA院長先生は落ち着いてきたのか、カルテを机に叩きつけることはなくなってきました。そうして午前中の診察は診療時間を大きく超えて終了したのでした。
後日、A院長先生にフィードバックを行いました。院長先生の表情や発言、行動が実際にどのようなものか客観的に伝わるように院長先生を撮影した動画(事前了承済、患者・家族に関係する情報は映らないよう配慮したもの)も添えて報告しました。
A院長 「自分の様子をこうして客観的に見るのは何とも言えない気持ちになりますね。正直言って見たくないというか……実はスタッフから 『院長先生は機嫌の良し悪しで態度が大きく違う』 という指摘があり、試用期間中の看護師も 『院長先生が怖い』 と言っていたと別のスタッフから報告もあったのですが、自分では全く自覚がなく、本当かどうか知りたいと上村さんにお願いした背景があったのです。この時、私は機嫌が悪かったわけではないのですが、忙しくなると慌ててしまうので、慌ててミスをしないように気合を入れていたのかなと……無意識に行っていたのだと思います。しかし、表情も相まって怒っているように見えるかもしれませんし、この自分には声を掛けにくいですね。自分は親しみやすいだろうと思い込んでいましたが、自分がクリニックの雰囲気を良くない方向に引っ張ってしまっていたことに気が付きました……」
しばらく唖然としていたA院長先生でしたが、組織をより良くしたい覚悟は本物。その後、A院長先生はスタッフに対し 「自分の言動に責任を持つ」 と、これまでの言動を謝罪するとともに、自分とスタッフがやり取りしている様子の動画の録画を積極的に行うようになったのでした。そのA院長先生の変化にスタッフは動揺したとのことですが、A院長先生の本気度合いがスタッフに徐々に伝わっていったことで、スタッフも巻き込んだより良い組織づくりが行われています。
このケース、どのような感想を持ちましたか?院長先生を日頃から支えるスタッフから 「院長先生の機嫌により組織の雰囲気が乱高下する」 という声を耳にすることは少なくありませんが、一方で自分自身が(本当に機嫌が悪いかどうかに関わらず)機嫌が悪いように見える振る舞いをしている自覚のあるリーダーは多くないようです。つまり、機嫌が悪い振る舞いと本当に機嫌が悪いかどうかは関係ないのです。
「今、機嫌が悪いですか?」 とわざわざ確認する人はあまりいないと思いますし、実際に言われたとしても 「そう言われて機嫌が悪くなった!」 となってしまう場合もあると思います。従って、自分の立ち居振る舞いが相手にどういう影響を与えるのかは、自分自身で振り返ったほうが素直な行動変容に繋がりやすいと考えます。誰も、機嫌の悪く見える人と積極的に一緒にいたいとは思わないものです。そうであれば、ご自身の言動がどう見えるのか、振り返ってみてはいかがでしょうか?
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