病院・診療所

複雑性係数の見直しで化学療法はどうする?

データから考える医療経営
株式会社メディチュア 代表取締役 渡辺 優

■機能評価係数Ⅱの現行の複雑性係数は 「複雑さ」 を評価していない

複雑性係数はその語感から 「複雑な(≒高度な)診療内容」 を評価しているように感じる。しかし、その定義は 「各医療機関における患者構成の差」 を評価するものであり、「1入院あたりの包括範囲出来高点数」 によって判断される。この 「1入院あたりの包括範囲出来高点数」 は 「複雑な診療内容」 であることも一定程度影響するものの、それ以上に平均在院日数の長さが大きく影響する。現状では、平均在院日数の長い疾患の比率が高い施設ほど有利になる仕組みである。

しかし、複雑性係数の向上を意図して疾患構成そのものを変えることはあまり現実的ではない。1入院あたり点数の低い入院患者を外来へ移行するなど、取り得る対策は限定的である。複雑性係数は医療機関の努力による改善余地が小さいことから、インセンティブとして設定することは好ましくない(筆者はこのことを10年以上指摘し続けてきた)。

その複雑性係数が、26年度診療報酬改定において抜本的に見直される可能性が示されている=資料1=。

資料1 現行の複雑性係数の評価方法における課題について

中央社会保険医療協議会総会(2025年11月26日開催)資料より引用

この資料では、1入院当たりの包括範囲出来高点数の高い疾患、すなわち現行の複雑性係数が高くなる疾患の代表例として、誤嚥性肺炎が挙げられている。現行の複雑性係数が 「複雑であること」 を評価していないという本質的な問題が、ようやく中医協の場でクローズアップされたことは非常に感慨深い。

複雑性係数の見直し案では、「1入院あたりの包括範囲出来高点数」 による現行方式から、「入院初期までの包括範囲出来高点数」 による評価へ移行することが提案されている。

■ 「入院初期までの包括範囲出来高点数」 が高いのは化学療法

提案されている新たな複雑性係数の評価軸である 「入院初期までの包括範囲出来高点数」 が高くなりやすい疾患として、まず想定されるのが化学療法である。化学療法はそもそも包括範囲出来高点数が高い。ただし、平均在院日数が短いことから、使用する薬剤によっては現行の複雑性係数では必ずしも評価されてこなかった。一方で、「入院初期」 に限定すれば、その点数は確実に高くなる。すなわち、複雑性係数の向上を狙うのであれば、化学療法は入院で実施すべき、という誘因が生じることになる。

一方、第4期医療費適正化計画では化学療法の外来移行が明確に推進されている=資料2=。これに準じる形で、急性期充実体制加算の施設基準には 「外来化学療法の実施を推進する体制」 として、化学療法のうち外来での実施割合が6割以上であることが求められている。

資料2 化学療法の入院実施を課題とする 「医療費適正化計画」

社会保障審議会 医療保険部会(2023年6月29日開催)資料より引用

「入院初期までの包括範囲出来高点数」 を用いた複雑性係数の評価方法の見直しは、化学療法の外来移行を推進してきたこれまでの政策的方向性と、明らかに逆行するものである。

時代の流れに逆行する評価指標は導入すべきではない。現行の複雑性係数は確かに問題があるが、次期改定に向け議論されている新たな評価案には、より大きな問題がはらんでいる。

もちろん、今後の議論の中で、外来移行が進んだ化学療法を複雑性係数の評価対象外とするなど、要件を精緻に設計すれば、外来移行の推進と両立する余地はあるかもしれない。しかし、そもそも努力余地の乏しい複雑性係数を機能評価係数Ⅱに残し続ける必要性は低い。複雑性係数は廃止し、その分、努力による改善が可能な効率性係数などに重きを置く制度設計へ転換すべきである。


【2026年1月15日号 Vol.18 メディカル・マネジメント】