病院・診療所

2026年診療報酬改定議論がキックオフ

診療報酬ズームアップ
株式会社MMオフィス 代表取締役 工藤 高

■ 「医療機関を取り巻く状況」 の議論から開始

厚生労働省は4月9日、2026年度診療報酬改定に向けてのキックオフとなる中医協・総会を開催した。改定に向けた最大の課題は約30年間にわたって続いてきたデフレ経済が終わり、インフレ経済に転じて費用高になっていることだ。その経済変化のスピードに、2年に1回の診療報酬改定が追いついていない。2024年の医療機関の倒産は2000年以降では過去最高の件数となっており、改定に向けた政府への6病院団体の提言にある 「このままではある日突然、病院がなくなる」 は誇張ではなく、そこにある現実である。この提言に示されたデータでは、病床利用率は1ポイント上昇していたが、医業利益の赤字病院割合は69%まで増加、経常利益の赤字病院割合は61%まで増加していた。
財務省は病院経営が悪化しているのは 「病床利用率がコロナ前に戻っていない」 という考えであるが、そうではなくインフレ経済で人件費、材料費、水道光熱費等のコストが異常に上昇しているからだ。それでも黒字病院は医療提供内容のパワーアップによって、病床利用率が5ポイント程度増加したり、病棟再編によって大幅増収できた病院である。コロナ前と同程度稼働の病院はコスト高によって漏れなく赤字基調となっている。つまり、物価上昇に対応していない診療報酬の建付けが悪いわけだ。そのため今回は個別の議論に入る前に春から初夏にかけて、医療機関を取り巻く状況、医療提供体制について議論する場を設けるが、これまでの改定議論ではなかった異例のことだ。

■2026年改定も新点数施行は6月実施へ

夏以降は例年通りのスケジュールで進み、本年6月半ばから9月半ばまでが 「その1シリーズ」 、その後は 「その2以降シリーズ」 として、外来や入院など各項目について議論を行う。同時並行で専門部会・小委員会で各論の議論を行って、改定の答申は例年通りの2026年2月を予定している。
前回2024年改定は2024年2月14日に中医協が改定内容を厚生労働大臣に答申して個々の点数が決定した。ただし、新点数施行は電子カルテベンダーや医事課の働き方改革のために6月からであり、上半期の3分の1にあたる4月、5月は旧点数のままだった。6月新点数施行は政府の医療DX推進本部が中医協に対して後ろ倒しの検討を委ねたからだ。
たしかにベンダーのSE(システム・エンジニア)にとっては、改定年の2月~3月は 「働き方改革」 に逆行するような不眠不休の過酷な労働状況になっていた。過去に何人も、バーンアウト(燃え尽き症候群)で電子カルテ・レセコン関連業界から足を洗うSEを見てきた。医事課も同様であり、施設基準等の不明点が3月30日または31日の遅い時間に 「事務連絡その1(Q&A)」 として100ページ以上のボリュームで発出されると、4月1日からの新点数施行にシステムの対応が間に合わないことが多々あった。

■1点11円主張は 「諸刃の剣」 のリスクもある

電子カルテベンダーや医事課にとって6月新点数施行は歓迎すべきことだが、病院経営の年度決算においてはそうではない。社会医療法人A病院(300床)ではベースアップを除いて給与が1号俸あがる定期昇給は毎年4月から実施されている。これに対して2024年改定では6月からベースアップ評価料や40歳未満の医師や事務職員等の賃上げ分として初・再診料、入院料は引き上げとなり、2カ月のタイムラグが生じる。今回も6月から新点数施行のために年度決算にあたって2カ月間は2024年改定の旧点数のままだ。
2026年改定へ向けた最大の焦点は本年12月下旬に決まる診療報酬改定率になる。前回2024年度改定は2023年12月20日に厚労大臣と財務大臣が大臣折衝を行って、内閣が本体+0.88%、薬価・材料等は▲1.00%、差し引き▲0.12%とすることを決定した。改定率決定にあたって最大のキーマンになるのは財務省だ。各省庁の予算を削るスタンスのため 「官庁の中の官庁」 や 「最強の官庁」 などと呼ばれる。
財務省は 「コロナ補助金で医療機関の純資産は増加したので、それで対応すべき」 というスタンスである。しかし、そんな余裕がある病院はなく、6病院団体の要望どおりに 「社会保障関係費の伸びを高齢化の伸びの範囲内に抑制する」 というルールの見直しと、物価上昇分の連動型にする必要があることは間違いない。現在の診療報酬の1点10円を物価上昇に応じて1点11円などのスライドという 「1点10円変動制」 の意見が診療側にある。2025年度は期中改定がないので、これを行えば次回改定までの経営危機をしのげる病院は多くなるだろう。
しかし、逆にデフレ経済に転じて再び物価が下がったときに1点9円という施策も取れるために 「諸刃の剣」 である。財務省の財政制度等審議会・財政制度分科会(財政審)が主張する医師偏在対策のため医師過剰地域の診療所の診療報酬1点9円への引き下げが必要という 「ディスインセンティブ」 措置にお墨付きを与えてしまうからだ。 「物価上昇時だけ1点11円にする」 では支払側の了承を得るのは難しい。


【2025. 6. 1 Vol.3 メディカル・マネジメント】