病院・診療所

スタッフのやる気と成長に本当に必要なこととは? ~制度よりも “雰囲気” がカギ~

クリニック相談コーナー
合同会社MASパートナーズ 代表社員 原 聡彦

【相談内容】

四国地方で整形外科クリニックを運営されている、教育熱心な院長先生より、次のようなご相談をいただきました。
  • 院内に講師やコンサルタントを招いて研修や個人面談を定期的に実施すれば、スタッフの意識は変わるのか?
  • 研修の費用を自腹で負担してもらえば、スタッフは真剣に学んでくれるのか?
  • 院内に委員会活動やプロジェクトを導入すれば、成長につながるのか?
  • 歩合制にすれば、やる気は上がるのか?

【回 答】

これらのご質問に対する私の回答は、 「Yesでもあり、Noでもある」 という一見あいまいなものになります。ですが、この“あいまいさ” には明確な理由があります。
なぜなら、スタッフの意識が高まるかどうかは、制度や仕組みそのものではなく、スタッフ本人の自発性と職場全体の雰囲気に大きく左右されるからです。
例えば、スタッフが 「無理やり研修に参加させられた」 と感じている状態で、さらに研修費を自腹で負担させられた場合、学びが深まるどころか、クリニックへの不信感や不満が強まり、最悪の場合、退職につながることもあります。逆に、自らの意思で学びたいと感じているスタッフであれば、費用負担にかかわらず高い意識で取り組み、学んだことを現場に還元してくれます。
つまり、導入する制度や研修の“中身” よりも、それを受け止める“土壌” ――すなわち職場の雰囲気こそが成否を分ける鍵なのです。

1.雰囲気がすべての出発点
私は多くのクリニックを支援する中で、診療の質やスタッフ定着に大きな影響を与える要素として 「院内の空気感」 の重要性を痛感しています。
実際、税理士、社労士、電子カルテ業者、医薬品卸業者など、日常的に多くのクリニックを訪問する外部の方々との会話でも、 「あのクリニックは雰囲気がいい」  「あそこは空気が重い」 といった話題がよく上がります。こうした感想は、第三者の視点だからこそ見えてくる“職場の本質” を映し出しているといえるでしょう。
この「雰囲気」は、経営者である院長の言動や姿勢がスタッフに影響しやがてスタッフ同士の関係性やコミュニケーションにも波及しながら、時間をかけて形成されていきます。雰囲気の良い職場には自然と同じような前向きな人材が集まり、雰囲気の悪い職場には反対の性質を持つ人材が集まりやすくなります。とはいえ、自院の雰囲気を客観的に評価するのは簡単ではありません。そこで私どもがさまざまなクリニックに関わる中で職場の雰囲気を基準化すべく、 『職場レベル』としてまとめてみました。

2.職場レベル ―雰囲気を可視化するための7段階指標―

職場の雰囲気をマイナス2からプラス4までの7段階で見える化した 「職場レベル」 という指標を用いて整理しています。以下にその一部をご紹介します。

レベル マイナス2: 「組織崩壊寸前」
  • スタッフ同士で挨拶すら交わさず、無関心。
  • 古参スタッフが実権を握り、院長の指示が機能しない。
  • 必要最低限の会話しかなく、重苦しい空気が職場を覆う。
  • 院長が常に気を張り続け、精神的に追い詰められている。
この状態では制度や仕組みを整える前に、関係性の修復と組織風土の再構築が必要です。

レベル マイナス1: 「関係性の希薄化」
  • 一応挨拶はあるが、目を見ず、小さな声。
  • 不満や陰口が横行し、前向きなスタッフが早期退職。
  •  結果として後ろ向きな人材だけが残り、組織が硬直化。
この段階ではまず、丁寧な対話と日常の小さな承認・フィードバックを積み重ねることが重要です。
特に、外部の人が初めてクリニックを訪れたときに感じる 「受付の印象」 は、職場の雰囲気をそのまま反映しています。受付は“クリニックの顔” であると同時に、“職場の空気を映す鏡” でもあるのです。
一度、業者や紹介先の医療機関、または患者さんからの印象を聞いてみると、自院の“見えにくい現状” に気づくきっかけになるかもしれません。

3.まとめ ― 「制度」 よりも 「空気」 をつくる ―

制度や仕組みは、あくまで 「運用される環境」 が整っていてこそ効果を発揮します。研修・歩合制・委員会活動といった取り組みも、それを支える職場の雰囲気が整っていなければ空回りし、逆効果になることもあります。
まずは、安心して意見が言える風土、ミスを許容しフォローし合える文化、頑張りが自然と称えられる仕組みを意識的につくっていくこと。それが、本当の意味でスタッフの自発性とやる気を引き出す第一歩です。
そして、職場の雰囲気は放っておいて自然に良くなるものではありません。院長の一言、ひとつの表情、一つの振る舞いが、スタッフの態度に大きく影響を与え、職場全体に波及します。
 
次回は、 【 職場レベル:レベル0~2 】 の具体的な状態と、雰囲気改善のための実践的なヒントをお届けいたします。


【2025. 6. 1 Vol.3 メディカル・マネジメント】