病院・診療所

組織の雰囲気は “4段階” で進化する! 院長がつくる職場の未来

クリニック相談コーナー
合同会社MASパートナーズ 代表社員 原 聡彦

【相談内容】

前回に引き続き、四国地方で整形外科クリニックを開業して7年目の院長先生からのご相談です。
「院内の教育環境を整えたいと思っているのですが、スタッフのモチベーションを高める方法について悩んでいます」
  • 講師やコンサルタントを招いての研修や個人面談を定期的に実施すれば、スタッフの意識は変わるのでしょうか?
  • 研修費用をスタッフ自身に負担してもらえば、真剣に学んでもらえるのでしょうか?
  • 院内に委員会活動やプロジェクトを導入すれば、成長につながるのでしょうか?
  • 歩合制にすれば、やる気が出るのでしょうか?
スタッフに対して何をどの順番で取り組めばよいのか、その指針が見えず迷っておられるご様子でした。

【回 答】

前回もお伝えした通り、これは非常に多くの院長先生が共通して抱える悩みです。今回のご相談は 「制度を導入すれば職場は変わるのか?」 という問いですが、その答えは 「Yes」 でもあり、 「No」 でもあります。
前回、 「制度」 や 「施策」 自体は職場を変える魔法ではない、とお伝えしました。職場の雰囲気やスタッフの関係性、院長自身のスタンスによって、その効果はまったく変わります。今回は、職場の成長には何が必要か、それを 「職場の雰囲気の成熟度(レベル)」 という視点から段階的にご紹介します。

■レベル0 「指示待ち中心の組織」
特徴:
  • 自分の仕事は一通りこなせるが、それ以上の協力や連携はない
  • 指示された仕事が未着手で放置されることがある
  • ミスや課題に対する報告がない
院長の対応:
この段階では 「制度」 よりも、まずは院長ご自身が ” 観察力” を高め、 「頑張ったことに気づき、褒める」 という関わりを意識することが最優先です。また、仕事の進捗管理や納期の声掛けを通じて、 「報連相しやすい雰囲気づくり」をプロデュースすることが大切です。

■レベル1 「情報共有が定着した職場」
特徴:
  • 来院者に自然な笑顔で挨拶ができる
  • 定例ミーティングが定着し、院長の考えがスタッフに伝わる
  • 前向きな声が出始めるが、行動にはつながらない
  •  承認欲求が強く、「私は頑張っているのに……」 という不満が蓄積しやすい
院長の対応:
この段階になると、研修や委員会活動といった制度導入も効果を発揮し始めますが、“やらされ感” が強まらないよう注意が必要です。 「仕事とはこうあるべき」 と説教じみた関わりは、逆に反発を生む可能性もあります。まずは 「一人ひとりの承認欲求に応える」 ことを重視してください。

■レベル2 「ミーティングが活性化した職場」
特徴:
  • スタッフ同士の感謝や気遣いの声が自然に飛び交う
  • ミーティングがスタッフ主導で行われる
  • 成長を意識した目標設定が行われ、自己改善が進んでいる
  • 院外活動やプロジェクトへの参加意欲が見られる
院長の対応:
このレベルに達すると、外部研修やプロジェクトの導入も非常に効果的です。ノウハウが職場で 「使われる知識」 へと変わり、実際の行動に反映されていきます。費用を一部スタッフが自己負担しても、自主的に参加する者が出てくる段階です。

■レベル3 「チーフが機能する組織」
特徴:
  • 来院者から「雰囲気が良いクリニック」と褒められる
  • チーフが院長の目が届かないところをフォロー
  • 院内イベントや採用活動をスタッフ主導で実施できる
  • 離職率が下がり、組織の安定感が増す
院長の対応:
このレベルでは、チーフやリーダー格のスタッフが職場を牽引してくれます。研修制度や歩合制といった施策がチーフからの提案で自然と導入されていくこともあります。院長は 「すべてを自分で抱え込まない」 マネジメントへと移行していくべき時期です。

■レベル4 「自立型組織が確立された職場」
特徴:
  • 地域から「あの医院は他と違う」と評判が立つ
  • 院長が不在でも組織が自走し、成果を出し続ける
  • スタッフのプロ意識が高く、謙虚で素直、学ぶ意欲に溢れる
  • 院外から講師として招かれるような存在も現れる
院長の対応:
ここまでくると、クリニックは 「自立した学習・成長機関」 になります。院長は現場から一歩引いて、ビジョンや未来設計に集中することができます。ここに到達するには、制度ではなく“信頼文化” が土台になっていることが共通点です。

【まとめ】
今回のご相談のように、 「制度が効果を生むかどうか」 は、その職場の“成長段階” によって変わります。制度やノウハウを導入する前に、まずご自身のクリニックが今どの段階にあるのかを冷静に見極めてみてください。そして、今のレベルに応じた “院長としての関わり方” を整えることが、次の成長への確かな一歩になります。
スタッフを信じ、信頼関係を積み重ねることが、何よりも強い組織の土台になります。
今後の皆さまの取り組みが、より温かく、強いチーム作りにつながることを願っております。


【2025. 6. 15 Vol.3 メディカル・マネジメント】