病院・診療所

2026年改定は前回に続き診療所には逆風か

診療報酬ズームアップ
株式会社MMオフィス 代表取締役 工藤 高

■改定率は診療報酬の増減率ではなく実際は 「寄与率」

6月上旬に病院経営危機に関する番組が立て続けにNHKにおいて放送された。その内容には賛否両論があったが、いずれにしても病院団体の提言にある 「このままではある日突然、病院がなくなる」 は誇張ではなく、そこにある現実だ。病院経営危機の最大の理由は約30年間にわたって続いてきたデフレ経済が終わり、インフレ経済に転じて費用高になったが、その経済変化のスピードに、2年に1回の診療報酬改定が追いついていないことである。
前回2024年改定では2023年12月20日に本体部分を+0.88%引き上げることを決定した。一方、薬価を▲0.97%、医療材料価格を▲0.02%のマイナスとして、差し引きでは▲0.12%となった。本体+0.88%は前々回2022年改定を0.45ptほど上回り、これは2014年改定からの自民党政権下では最も高い改定率になっている。ちなみに民主党(当時)政権下の2010年は本体+1.55%、2012年は同+1.379%と高いプラス改定だった。一昨年12月の改定率決定当時は物価高の兆しはあったが、お米5kg2,000円が倍の4,000円以上になるという 「令和の米騒動」 が1年半後に勃発するとは誰も想定していなかった。
診療報酬改定率とは現年度の政府予算の積算上の医療費に対して、翌年度はどれくらいかの目安(名目の値)を示す指標になる。政府の翌年度の予算案決定と改定率決定時期が12月中旬から下旬に重複するのは、翌年度の保険料率や医療費に連動する税金額を確定させるために名目医療費が必要になるためである。
誤解が多いが 「改定率=診療報酬の増減率」 ではなく、実際は 「寄与率」 となる。 「ある変数の変動に対し、各要因がどれだけ影響しているか」 を表したものが寄与度になり、それを変動全体に対する百分率で表したものが寄与率となる。改定前年12月の改定率は予算編成過程を通じて内閣が決定するが、そこでは内閣、財務省、厚労省、診療側(日本医師会)、支払側(健保連)のステークホルダー(利害関係者)による丁々発止の議論になる。

■財政審は 「外来管理加算の再診料への包括化」 や 「機能強化加算」 の廃止を提言

財務省は 「最強の官庁」 である。前回改定でも予算編成などの方針を財務省に提言する財政制度等審議会(財政審)では診療報酬本体のマイナス改定を提言した。その内容は 「2022年度の経常利益率は診療所が8.8%、中小病院は4.3%だった。医師の働き方改革が喫緊の課題となるなかで、診療所と病院の間の医師の偏在是正の観点からも早急な対応が必要」 とした。具体的には 「診療所の報酬単価について初診料・再診料を中心に引き下げ、診療報酬本体をマイナス改定とすべきである」 とした。財務省が改定のたびに前回のようにマイナス改定を示唆するのはいつものことであり、医療機関側から見たら完全なヒールである。
実は前回2024年改定も診療所に対しては 「生活習慣病を中心とした管理料・処方箋料等の効率化・適正化」 で▲0.25%とされて、内科系診療所で 「特定疾患療養管理料」 の対象疾患から高血圧症、糖尿病、脂質異常症の3疾患が除外された。また、トリガーポイント注射、耳垢栓塞除去術、細隙灯顕微鏡検査の汎用的な医療行為点数が引き下げられ、整形外科、耳鼻咽喉科、眼科の診療所もターゲットになった。財務省の 「診療所はマイナス改定に」 という意向を受けた改定内容であった。
今回も財政審は 「外来管理加算の再診料への包括化」 や 「機能強化加算」 の廃止など、 「かかりつけ医機能」 を評価する診療報酬の見直しを提言している。前回改定でも計画的な医学管理を評価する外来管理加算52点は、診療所や200床未満の病院において処置やリハビリテーション等を行わずに、計画的な医学管理を行った場合に算定すべきという 「要件が極めて曖昧であり、妥当性に大きな疑問があり、患者も理解できない」 として廃止すべきとした。前回は日本医師会の強硬な反対で残ったが、今回も同じ提案をしている。

■診療所経営は病院に比べて悪くないというデータ

財政審は中医協において公表された全国の医療法人の事業報告書等から、1法人当たりの本来業務に要した費用は、診療所・病院ともに微増であったものの、 「無床診療所のみを経営する医療法人の利益率は8.6%であり、中小企業の全産業平均である3.6%よりも高い水準」 と指摘している。
財政審では 「病院と診療所では経営状況や費用構造等が異なることを踏まえたメリハリある改定の実施」 することを提案している。中医協でもそうだが、病院経営の損益率は厳しいが、それと比較すると診療所経営は余裕があるというデータが多く示されている。前回改定で職員のベースアップを診療報酬で評価する外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)の届出状況も、病院が86.0%届出しているのに対して、診療所では27.8%の届出と3割に満たない。これも財務省側に 「診療所経営は余裕があるのでは」 と判断されてしまうだろう。
財務省は、医療費の伸び(薬剤費等を除く)が高齢化等の人口要因に加え、診療報酬改定(政策的な価格変更)により概ね上昇を続けてきており、 「こうした医療費増加は現役世代の社会保険料負担を含む国民負担の増加に直結するものであり、国民皆保険を堅持するためにも、病院と診療所では経営状況や費用構造等に差異があることにも配意しつつ、全体として診療報酬の適正化を図ることが必要」 と指摘した。2026年改定は診療所には逆風が吹くであろうが、それを日本医師会がどう食い止めるかだ。政局の行方も不透明だ。


【2025年7月1日号 Vol.5 メディカル・マネジメント】