組織・人材育成

評価者研修と仕事に対する価値基準の統一

仕事に対する価値基準の統一を図る
株式会社To Doビズ 代表取締役 篠塚 功
指導職(主任)や管理職(師・課・科長)を集めた評価者研修で、甲主任から「自分は資格を取得するという目標はチャレンジ目標とは考えないが、部下は、それをチャレンジ目標だと言い張る。これについて、他の部署ではどのように扱っているか」という質問がありました。A科長からは、チャレンジでよいのではないかという意見が出され、B師長からは、レベルでよいのではないかという意見が出されるなど、価値基準は様々です。

この病院の人事評価のルールでは、チャレンジ目標の場合には、評価結果にプラス1をすることになっています。したがって、レベルの目標であれば、目標を達成すればS~Dの5段階評価でB評価ですが、チャレンジとすれば、それにプラス1をして、A評価になります。

目標管理の評価は、客観的な評価が可能だと言われますが、資格を取得するといった目標の難易度を決めるだけでも、意見が分かれることに気づきます。甲主任は、資格を取るだけの目標では、組織に良い影響を与えることまで約束していないのだからチャレンジにはしないという意見であり、仕事主義の価値基準を持っていると言えます。一方、A科長は、専門職としての能力向上を優先させる能力主義の価値基準を有していると言えるでしょう。どちらが正解ということはありませんが、人事評価の結果を処遇に反映させる以上、病院として指針を示す必要があります。
 評価者が実際に評価した結果を使って研修をすることで、病院の管理職等の価値基準を知ることができます。また、実際にどのようなマネジメントが行われているかの実態を知る機会にもなるでしょう。そこで、今回は、評価者研修について考えます。

評価者研修で管理職・指導職を知り、仕事に対する価値基準の統一を図る

冒頭の病院では、S評価を付けた評価者が大勢おり、人事部長から、それらの評価が妥当であるか疑問であるとの話があったため、特にS評価を付けた内容を研修に使用することにしました。
事前にS評価を付けた評価者にその理由を書いてもらい、それを基に、研修会の場で、理由を中心に発表をしてもらいます。そして、それに対して意見交換を行ない、参加者の価値基準が同じなのかを判断します。価値基準が違えば、意見を交わし、基準を合わせていきます。
特に、目標管理では、各部署でどのような目標が立てられているのかを知ることもできますし、管理職等の部下の目標への関与の度合いも分かります。目標設定が十分でない場合には、それに気づいてもらう機会にもなるでしょう。今回の研修では主に2点注意しました。1つは、目標のアクションプランが正しく書かれていないことです。「何を、どの程度、どのような方法で、いつまでにするのか」詳細に記載されていなければ、目標が達成できるかの判断もできませんし、目標達成時の姿がイメージできません。2つ目は、委員会活動や小集団活動の目標が、そのまま、個人の目標管理シートに書かれていることです。人事評価に使用する目標管理は、個人の評価ですから、個人が何をするかが目標であり、委員会の目標は、個人の目標にまでブレイクダウンされなければなりません。委員1人1人が明確な目標を持ち、それを達成することで、委員会自体の目標が達成されます。みんなで協力して大きな目標を達成することは大事ですが、1人1人の責任を明確にして活動しなければ、リンゲルマン効果(集団活動の中で無意識に手を抜くこと)が起こることにもなりかねませんし、個人の評価もできません。

この研修で見えてくることは、他にもあります。科長が部下に気を使い過ぎて、甘い評価になっているのか、上手くマネジメントができていないのではないかということも推測できます。また、人事評価自体をきちんと行えているのかも分かります。例えば、表現力という評価要素でSを付けた理由を確認した際、捉えた職務行動が全く異なる回答などをする人は、評価要素の定義を理解していないし、他の素晴らしいことを引きずって評価をしている(ハロー効果)ことなどが分かります。その場合、人事評価の基本を今一度思い出してもらうようにします。さらには、他の部署の協力が得られず目標が達成できなかったという事例が挙げられた際には、部署間の連携状況や、その際に科長が関係部署に適切に働きかけたのかも分かります。人事部長は、研修の場で、管理職等の適正や課題に気づくことができますから、その後のフォローもしやすくなります。

冒頭の資格取得に関しては、資格取得だけでは、チャレンジ目標とはしないこととし、この目標では、達成してもB評価となるという指針を決めました。また、資格を生かして業務改善につなげる所までを目標とすることで、チャレンジとすることを可能とし、資格取得だけを目標としないように誘導する指針も追加しています。部下の自己評価と上司評価のずれを解消するためには、これらの指針は、評価を受ける職員にも正しく伝え理解をしてもらう必要があるでしょう。一定の価値基準を病院の指針として示し、職員全員が仕事に関する重要な部分について、同じ価値基準を持って働くということは非常に大事なことと考えます。


【2022. 11. 01 Vol.555 医業情報ダイジェスト】