診療報酬

退院時薬剤情報管理指導料と退院時薬剤情報連携加算の算定状況を検証する

退院時の服薬指導の取り組み状況は?
株式会社メデュアクト  代表取締役 流石 学
病院薬剤師による入院患者への服薬指導は、薬剤管理指導料に目が行きがちだが、退院後の服用薬に関する指導への診療報酬上の評価は退院時薬剤情報管理指導料になり、退院日に90点を算定できる。

2020年改定では退院時薬剤情報管理指導料への加算として、退院時薬剤情報連携加算が新設された。退院時薬剤情報連携加算は、入院前に服用していた内服薬を入院中に変更、中止した場合に、変更理由とその後の状況を保険薬局に文書で提供すると60点を算定できる。病院薬剤師から薬局薬剤師への情報提供による切れ目のない薬学的管理への取り組みに対する評価だ。

■退院時の服薬指導の取り組み状況は?

今回は、第7回NDBオープンデータならびに令和2年度病床機能報告の結果を用いて、退院時薬剤情報管理指導料および退院時薬剤情報連携加算の算定状況を検証した。
いずれも算定率を算出したが、退院時薬剤情報管理指導料の算定率は、対象病棟の退院患者数(院内転棟および死亡退院等を除く)に対する退院時薬剤情報管理指導料を算定回数の割合、退院時薬剤情報連携加算の算定率は、退院時薬剤情報管理指導料の算定回数に対する退院時薬剤情報連携加算の算定割合としている。

図に都道府県ごとの退院時薬剤情報管理指導料、退院時薬剤情報連携加算の算定率をプロットした。全体の算定率は、退院時薬剤情報管理指導料が33%、退院時薬剤情報連携加算は4%だったが、いずれも地域ごとに数倍の差があることがわかる。
分布をみると、退院時薬剤情報管理指導料の算定率が低いエリアは、退院時薬剤情報連携加算の算定率も低い傾向にある。しかし、退院時薬剤情報管理指導料が30%を超えると、退院時薬剤情報連携加算の算定率は地域間のボラティリティ(変動)が大きくなるようだ。
例えば、埼玉県では退院時薬剤情報管理指導料の算定率は全国トップだが、退院時薬剤情報連携加算の算定率は平均を下回っている。退院時の服薬指導には積極的だが、保険薬局への情報提供には消極的ということになる。
人口あたりの薬剤師数が全国でワースト常連であるはずの島根県は、退院時薬剤情報管理指導料、退院時薬剤情報連携加算のいずれの算定率も高い。地域差は決して薬剤師のマンパワーの問題だけではなさそうである。

■業務に優先順位をつけた結果か?

日本病院会が今年7月に公表した「病院薬剤師確保に関するアンケート調査」では、回答した病院の74.9%が「薬剤師が充足していない」と回答している。特に病床規模の大きい病院ほど、急性期機能を持つ病院ほど、薬剤師の不足感が強いようだ。

薬剤師のマンパワーが限られるために、求められるすべての業務を十分にこなすことができず、病棟薬剤業務実施加算の施設基準の維持を優先する、薬剤管理指導料もしくは退院時薬剤情報管理指導料の算定を優先するなど、業務を優先順位づけした対応をとる病院は少なくない。地域包括ケア病棟や回復期リハビリテーション病棟をメインにする病院では、評価が包括される病棟薬剤業務を後回しにして、セントラル業務を優先するケースも多い。
今回検証した退院時薬剤情報管理指導料は、点数も薬剤管理指導料と比較して見劣りしてしまうため、必要性は理解していても業務として劣後の扱いになってしまうのだろう。さらに退院時薬剤情報連携加算は、情報提供書の作成に手間がかかるわりに点数が60点と低い。他の業務さえ十分できていない状況では、さらに劣後の扱いになることは容易に想像できる。

診療報酬上の評価だけでなく、医師の働き方改革によるタスクシェア、タスクシフト等により、病院薬剤師の役割は改定のたびに増える傾向にある。そうした環境下であっても、病院の薬剤部門としての業務レベルを維持、向上させるためには、マンパワーを増やすか、機械設備の導入による業務効率化が求められる。いずれにしても環境変化に適応するための戦略的な取り組みを考える必要があるだろう。




【2022. 10. 15 Vol.554 医業情報ダイジェスト】