病院

患者未収金の回収について考える

未収金が発生してからの情報整理と回収に向けた初動が早い
あすの監査法人 公認会計士 山岡 輝之
医療機関の多くは3月を決算月としているため、私たち公認会計士の決算書作成支援や会計監査業務も4月~6月にピークを迎えます。
この時期は同時に多くの医療機関の決算内容を確認しますが、今回は患者に対する未収金残高について取り上げてみたいと思います。一般に、規模が大きい医療機関であればあるほど患者未収金残高が多額となるように思われますが、実際はそうとは限りません。
医事課が頑張って債権回収に積極的に動き、患者未収金残高が増えないように懸命に努力されている医療機関もある一方で、小規模な病院でも患者未収金残高が多い印象を受ける医療機関もあります。

皆様の医療機関では、患者未収金の債権管理、債権回収は十分に進んでいる状況でしょうか?
患者未収金の回収が適切に実施されている医療機関は、以下のような特徴を持っているのではないでしょうか。

1. 未収金が発生してからの情報整理と回収に向けた初動が早い

入院あるいは外来で患者に対する未収金が発生してしまった場合、少しでも早く患者と連絡を取り、債権回収に向けてアクションを起こすことが重要になります。

アクションを起こすためには、未収となった債権の情報がいち早く集約整理されること、そして、患者に対し、督促マニュアルに沿って順次回収に向けた取組みを機械的に進められる仕組みが構築されていることが大切になってきます。時間との勝負になります。
 患者未収金が多い医療機関では、そもそも発生してしまった未収金の集約整理までに時間がかかり、患者に対する債権回収へのアクションを起こすまでが遅くなっている特徴があるように思います。

未収債権の情報がしっかりと整理されているか、督促マニュアルに沿った患者に対する迅速な対応ができているか、自らの医療機関の状況を再確認してはいかがでしょうか。

2. 病院内部の職員だけで債権が回収できるとは考えていない

患者未収金の回収は、医事課の大事な役割であることは間違いありませんが、最近では悪質な患者も少なくはなく、患者が医事課職員に危害を加えるような事例もあります。そのため、病院職員だけで債権回収を完結させるのが基本とする考え方が大きく変わってきています。

これまでは病院職員により、少額訴訟の適用や弁護士等の随行による臨戸徴収も行われてきましたが、最近では、医療債権の回収に特化した弁護士や弁護士法人に債権回収業務を委託するケースが多くなっています。

さらに、弁護士や弁護士法人への債権回収委託も、これまでは内部職員では回収が厳しいと判断された債権のみを回収委託に出す傾向から、一定期間経過した債権を一律的に委託対象の債権とするルールに変更するなど、患者未収金の回収が長期化する前に、病院外部に債権の回収を積極的に依頼する傾向が強まっています。
考え方にもよりますが、この流れは結果として、未収債権の回収管理による病院職員の疲弊を軽減し、さらには職員を危険から守るという観点や、債権回収率の向上という観点からもいい傾向ではないかと私は考えています。
ただし、外部に委託するにしても未収債権の情報整理ができていることが前提です。まずは債権管理に必要な情報が迅速に整理され把握できる管理体制ができているのか、病院の管理体制を確認することが肝心です。

余談ですが、会計監査をしていた際に、1年を経過した患者未収金をこっそりと会計上の債権金額から削除し、管理除外としている医療機関がありました。回収が長期化しているとはいえ、立派な債権であることは間違いありません。決してこのようなことはないようにお願いしたいです。


【2023. 6. 1 Vol.569 医業情報ダイジェスト】