病院・診療所

複数の医師と訪問診療に取り組むポイント

マニュアルで訪問診療を標準化
合同会社MASパートナーズ 代表社員 原 聡彦

【相談内容】

開業15年目の内科クリニックを運営している先生からのご相談です。
「開業以来、外来診療とともに訪問診療に力を入れ、常時400人ほどの患者を非常勤医師5名とともに在宅で診ています。訪問診療の患者が常時200人を超えたあたりから、私と非常勤医師との意思疎通が希薄になって治療方針の統一が図れないことが増え、訪問診療の患者様やご家族からのクレームが頻繁に発生するようになりました。非常勤とはいえ担当している患者には主治医としての役割をはたしてもらい、同行している看護師から非常勤医師の意向を私に伝達する報告連絡相談の仕組みをつくって治療方針の統一を図りたいと考えております。そうした仕組みをつくるにあたり注意するポイントや他院の事例を教えてください。」

【回 答】

私どものクライアント様で訪問診療に積極的に取り組んでいる複数のクリニックが実践している共通事項をお伝えします。

1.クリニックの訪問診療の方針を共有する
非常勤医師など複数の医師と訪問診療に取り組むクリニックの場合、医師同士のコミュニケーション不足で統一した診療ができないことから、患者様やご家族からクレームを受けるケースが多くなっています。複数の医師と訪問診療に取り組む場合は、必ずクリニックとしての訪問診療の方針を共有していただくことをお勧めします。
訪問診療の方針の一例として、あるクリニックでは 「患者様やご家族の心配されていることに傾聴し、症状に対する指示・指導、お薬の変更の判断などを可能な限りその場で完了させる」 という方針を掲げています。この方針を掲げた院長先生の意図は 「医療の知識がない患者様やご家族の立場になって考えると、症状の変化から何を注意してどう対処していけばいいのか、薬もこれまでどおりで大丈夫なのかなど対処方法がわからないと必ず不安な気持ちになるので、可能な限り現場で不安を傾聴し、その場で指示指導など完了させることで患者様やご家族に安心感を与えることができる」 と考え、共有しているとのことです。

2.マニュアルで訪問診療を標準化
医師の個々の診療スタイルのバラつきをなくすために訪問診療マニュアルを作成し、訪問診療の標準化に成功しているクリニックもあります。そのマニュアルを一部お伝えします。

<訪問前>
  • 本日訪問する患者カルテを確認し、服用している薬、検査データなどの情報収集を行う。
  • 同行する看護師と申し送り(注意すべき患者さんの情報を確認しておく)。

<訪問中>
  • 患者カルテや申し送りで得た情報をもとに問診を行う。
  • バイタル測定(聴診・血圧・パルスオキシメーター)を行う。
  • 診療計画にある創傷・褥瘡処置、カテーテル交換などを行う。
  • ご家族や介護スタッフなど同席している方に病状の説明を行い、薬の変更や継続した観察、処置が必要なときは詳細説明を行う。

<訪問後>
  • 診察で得た情報をカルテに記載する。
  • 他院受診、訪問看護の導入など定期訪問診療以外の訪問・看護が必要な場合は指示する。
  • 院長が不在で伝えたいことがあるときは、訪問を担当した看護師へ伝達を行う。
  • 診察結果によって今後の訪問診療計画を見直す(医師同士で意見交換しリスケジュールする)。

3.事務スタッフの活用
訪問診療に事務スタッフを同行させているクリニックも増えつつあります。事務スタッフの役割は医師や看護師が診療と処置に専念できるようバックアップすることです。
訪問診療に同行する看護師は、①医師への情報提供(これまでの経過報告)、②患者様の状態確認、③採血などの処置及びカテーテル処置の補助、④残っている薬の確認、⑤事務連絡――などの業務を担っているケースが多いと思いますが、あるクリニックでは、④と⑤は事務スタッフが対応可能と考え、④⑤の業務を事務スタッフへ移行させたところ、看護師が本来業務に専念できるようになりました。さらに、時間の記録、各関係機関への連絡調整、入院手配なども事務スタッフが担ってくれるようになったおかげで、医師を含めた専門職が診療と処置に専念できるようになり効率的に動けるようになりました。ぜひ、事務スタッフの活用をご検討いただきたいと思います。

方針を共有することで患者様やご家族のクレームは減っているようです。そして、現場で完了させることで医師ご自身の訪問診療終了後の負担を軽減させることが可能です。
また、看護師が同行するクリニックであれば、診察及びカルテ記載や居宅療養管理指導書の記載、訪問看護指示書作成などを現場で完了させることを共通の目標にしていただくことをお勧めします。


【2024. 8. 15 Vol.598 医業情報ダイジェスト】