病院
不正から見える医療機関特有の課題
医療機関のガバナンスを考える
あすの監査法人 公認会計士 山岡 輝之2022年7月、熊本県にある地方独立行政法人くまもと県北病院の外部調査委員会から調査報告書が公表されました。調査報告書によると、過去3年間に9件の不祥事が連続して発生しており、組織内部の自浄作用だけではもはや実態解明も組織風土を変えていくことも見込めないため、外部調査委員会による調査が実施され、再発防止に向けた提言が行われたとのことです。
この調査報告書からも、医療機関でなぜ「不正」が減らないのか、医療機関が抱える特有の課題を垣間見ることができます。決して他人事ではない医療機関の不正について、前回は簡単に組織的な特徴から課題を考えましたが、今回は、医療機関で働く職員の意識、組織風土の観点から考察します。
最近になってこそ、医療機関においても一定の規模要件を満たす医療法人には会計監査制度が始まり、ガバナンスへの意識の変化を感じることもありますが、それでも医療機関の不正に対する統制環境の整備は、民間企業と比べると、まだ十分とは言えないように思います。
なぜ、医療機関は不正に対する意識が高まらないのか。そこには、「無知」「無関心」「不介入」、この3つの要因があるように感じます。
1つ目の「無知」とは、不正が起こることのないような体制整備をどのように構築すればよいのか知らない、あるいはそもそも意識がないことを意味します。ある医療法人の理事長から、組織を見直すにあたり、「業務を効率化したいため、財務部門と購買部門を一体化した組織変更を考えたい」という提案を受けたことがあります。この提案内容にピンときた方は不正を予防するための仕組みについて一定の知見があると思いますが、皆様いかがでしょうか。医療機関は、現金を収受する場面が多く、医療機器や材料等を購入する場面も多く、取り扱う金額も高額であることから、万が一に不正が生じた場合、その影響も大きいことを認識し、不正に対する意識と不正防止に対する知識を高めることが何より肝心です。
2つ目の「無関心」とは、他の部署、業務、職員がどのような業務を実施しているのか、どこまでの権限・役割を担っているのかについて関心がないことを意味します。医療機関は、それぞれの診療科・部署の専門性が高いことから、業務の属人化がどうしても起きやすくなります。事務職員であっても、医事や購買、経理などそれぞれの部署での専門性を高めることは重要ですが、同時に不正防止の観点からは不正を発生させない、または早期に発見できる体制を整備することも重要です。この課題には、各担当者がどのような業務を実施しているのか、どのように処理しているか、できる限り見える化していくことが、解決の糸口になります。この見える化ができていないことは、結果として不正を未然に防止する、あるいは不正による損害を少なくするための予防策がそもそも考えられていないことになります。
3つ目の「不介入」は、特に不正に対する根深い課題ではないかと考えます。これは、監査現場でも特に目にする問題です。「トップを守る」「組織を守る」「仲間を守る」ために、仮に不正事実や兆候が確認されても、動かない、動けない組織になっていないでしょうか。不正を完全に防止することはどの組織であっても難しいと思います。しかし、確認された不正に対し、徹底した事実の把握、原因の調査、再発防止策の策定実行、適切な処分が組織としてできなければ、もはや職員一人一人の不正に対する意識に頼るだけの状態となり、結果的にコンプライアンスを軽視する組織風土を作り上げてしまいます。
ある医療機関では、友人の外来窓口精算に対応した医事職員が、友人のために自己負担分を意図的に操作していた事実が確認されました。その後、医事職員はどうなったのか確認したところ、変わらず外来窓口を対応していたという事例がありました。また、経営層が独断で進めた事業により、法人に多額の損失が発生したものの、その報告も理事会等でなされることなく曖昧な形で終わってしまったこともありました。このような不祥事をあいまいな形で終わらせる組織風土は、新たな次の不祥事に繋がってしまいかねません。
なぜ、厳正な処分ができないのか。そこには「トップを守る」「組織を守る」「仲間を守る」とするよくない意識が働き、結果として不正に甘い組織を作ることになります。「長年、法人に貢献してきた職員だから、彼に退職されると法人が回らなくなる……」などと、甘い顔をしてしまったことはありませんか?
医療機関にも健全な法人経営を目指し、法人自身による組織管理体制が構築されることの重要性の認識が少しでも広がる一助となれば幸いです。
【2022. 9. 1 Vol.551 医業情報ダイジェスト】
この調査報告書からも、医療機関でなぜ「不正」が減らないのか、医療機関が抱える特有の課題を垣間見ることができます。決して他人事ではない医療機関の不正について、前回は簡単に組織的な特徴から課題を考えましたが、今回は、医療機関で働く職員の意識、組織風土の観点から考察します。
最近になってこそ、医療機関においても一定の規模要件を満たす医療法人には会計監査制度が始まり、ガバナンスへの意識の変化を感じることもありますが、それでも医療機関の不正に対する統制環境の整備は、民間企業と比べると、まだ十分とは言えないように思います。
なぜ、医療機関は不正に対する意識が高まらないのか。そこには、「無知」「無関心」「不介入」、この3つの要因があるように感じます。
1つ目の「無知」とは、不正が起こることのないような体制整備をどのように構築すればよいのか知らない、あるいはそもそも意識がないことを意味します。ある医療法人の理事長から、組織を見直すにあたり、「業務を効率化したいため、財務部門と購買部門を一体化した組織変更を考えたい」という提案を受けたことがあります。この提案内容にピンときた方は不正を予防するための仕組みについて一定の知見があると思いますが、皆様いかがでしょうか。医療機関は、現金を収受する場面が多く、医療機器や材料等を購入する場面も多く、取り扱う金額も高額であることから、万が一に不正が生じた場合、その影響も大きいことを認識し、不正に対する意識と不正防止に対する知識を高めることが何より肝心です。
2つ目の「無関心」とは、他の部署、業務、職員がどのような業務を実施しているのか、どこまでの権限・役割を担っているのかについて関心がないことを意味します。医療機関は、それぞれの診療科・部署の専門性が高いことから、業務の属人化がどうしても起きやすくなります。事務職員であっても、医事や購買、経理などそれぞれの部署での専門性を高めることは重要ですが、同時に不正防止の観点からは不正を発生させない、または早期に発見できる体制を整備することも重要です。この課題には、各担当者がどのような業務を実施しているのか、どのように処理しているか、できる限り見える化していくことが、解決の糸口になります。この見える化ができていないことは、結果として不正を未然に防止する、あるいは不正による損害を少なくするための予防策がそもそも考えられていないことになります。
3つ目の「不介入」は、特に不正に対する根深い課題ではないかと考えます。これは、監査現場でも特に目にする問題です。「トップを守る」「組織を守る」「仲間を守る」ために、仮に不正事実や兆候が確認されても、動かない、動けない組織になっていないでしょうか。不正を完全に防止することはどの組織であっても難しいと思います。しかし、確認された不正に対し、徹底した事実の把握、原因の調査、再発防止策の策定実行、適切な処分が組織としてできなければ、もはや職員一人一人の不正に対する意識に頼るだけの状態となり、結果的にコンプライアンスを軽視する組織風土を作り上げてしまいます。
ある医療機関では、友人の外来窓口精算に対応した医事職員が、友人のために自己負担分を意図的に操作していた事実が確認されました。その後、医事職員はどうなったのか確認したところ、変わらず外来窓口を対応していたという事例がありました。また、経営層が独断で進めた事業により、法人に多額の損失が発生したものの、その報告も理事会等でなされることなく曖昧な形で終わってしまったこともありました。このような不祥事をあいまいな形で終わらせる組織風土は、新たな次の不祥事に繋がってしまいかねません。
なぜ、厳正な処分ができないのか。そこには「トップを守る」「組織を守る」「仲間を守る」とするよくない意識が働き、結果として不正に甘い組織を作ることになります。「長年、法人に貢献してきた職員だから、彼に退職されると法人が回らなくなる……」などと、甘い顔をしてしまったことはありませんか?
医療機関にも健全な法人経営を目指し、法人自身による組織管理体制が構築されることの重要性の認識が少しでも広がる一助となれば幸いです。
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