保険薬局

【若手薬剤師もわかる】薬局のチーム力を高める リーダーシップ入門(第2回)

薬局経営の今とこれから
株式会社iMus 代表取締役社長 薬剤師 安田 幸一
前回は、強いチームを作るための基本要素である 「P機能(目標達成)」 と 「M機能(集団維持)」 について学ぶ 「PM理論」 をご紹介しました。チーム全体の方向性を定め、働きやすい環境を維持することがリーダーの重要な役割であることをご理解いただけたかと思います。第2回となる今回は、もう一歩踏み込んで、チームを構成する 「一人ひとり」 のスタッフに、状況に応じてどう関わっていくべきかを解き明かす 「パス=ゴール理論」 について学んでいきましょう。

メンバーに合った関わり方がわかる 「パス=ゴール理論」

パス=ゴール理論とは、その名の通り 「メンバーがゴール(目標)にたどり着くまでの道のり(パス)を、リーダーが明確にし、サポートすることで、目標達成を助ける」 という考え方です。この理論の最も重要なポイントは、そのサポート方法が 「いつでも同じではない」 という点です。相手の経験、能力、そしてモチベーションの状態に合わせて、リーダーは自身の振る舞いを柔軟に変える必要があるとされています。
具体的には、リーダーの振る舞いを以下の4つのタイプに分け、状況に応じて使い分けます。

1.指示型リーダーシップ: 「やり方はこうだよ」 と、具体的に教える
業務の手順やルール、期待される役割などを具体的かつ明確に指示する関わり方です。
  • どんな時に使うか?:新人や、まだ業務に不慣れなスタッフに対して特に有効です。また、業務が複雑であったり、手順が曖昧だったりする場合にも効果を発揮します。
  • 薬局での活用シーン:初めて投薬カウンターに立つ新人薬剤師に 「まずこの手順書通りに、患者さんのお名前と生年月日を確認してから薬の説明を始めてください」 と具体的に指示する場合が挙げられます。明確な指針は、何をすべきかがはっきりするため、新人の不安を和らげ、安心して業務に取り組む助けとなります。

2.支援型リーダーシップ: 「困ってることない?」 と、心に寄り添う
メンバーの悩みや不安に耳を傾け、働きやすいように精神的なサポートを行う関わり方です。
  • どんな時に使うか?:スタッフが精神的に疲れていたり、クレーム対応で落ち込んでいたり、職場の人間関係に悩んでいたりする時に効果的です。また、この支援的な姿勢は、あらゆる相手に対して常に基本となるものです。
  • 薬局での活用シーン:忙しい時間帯が終わった後に 「みんな、お疲れさま!」 と労う。こうした日々の小さな気遣いが、働きやすい雰囲気を作り、チームの信頼関係を育みます。

3.参加型リーダーシップ: 「みんな、どう思う?」 と、意見を求める
重要な意思決定を行う際に、事前にメンバーに相談し、その意見を反映させる関わり方です。
  • どんな時に使うか?:経験豊富な中堅・ベテランスタッフと共に、薬局の新しい方針などを決める際に適しています。メンバーが自分の意見が尊重されていると感じることで、決定事項への納得感が高まり、主体的な行動が促進されます。
  • 薬局での活用シーン:新しい取り組みを行う時、ミーティングで問いかける。現場を熟知したスタッフの意見を吸い上げることで、より現実的で優れたアイデアが生まれ、スタッフの 「やらされ感」 を軽減することにも繋がります。

4.達成志向型リーダーシップ:「君ならできる!」と、成長を促す
メンバーの能力を信じ、挑戦的で高い目標を設定して、その達成を促す関わり方です。
  • どんな時に使うか?:意欲と能力のあるスタッフに、さらなる成長を期待する時に用います。メンバーが自身の能力に自信を持っている場合に最も効果的です。
  • 薬局での活用シーン:特定領域の専門性に興味を持つ薬剤師に 「全力でサポートするから!」 と、少し高い目標を提示して挑戦を促す。本人の自信と専門性を高めることが、薬局全体のレベルアップにも貢献します。

明日からできる、リーダーシップの第一歩

前回は 「PM理論」 を、今回は 「パス=ゴール理論」 をご紹介しました。これらは別々の話ではなく、車の両輪のような関係にあります。 「PM型リーダー」 としてチーム全体のP(目標達成)とM(人間関係維持)を常に心掛け、その上で、目の前の相手や状況に応じて、 「パス=ゴール理論」 の4つの顔を使い分ける。これが、私たちが目指す理想のリーダー像です。
例えば、後輩がミスをして落ち込んでいたら、まず 「支援型」 で優しく話を聞き(M機能)、その上で再発防止策を 「指示型」 で具体的に教える(P機能)。薬局全体で新しい在宅訪問サービスを始めるなら、 「参加型」 でみんなの意見を聞いて協力体制を作り(M機能)、具体的な目標と計画を立てて実行していく(P機能)、というように組み合わせることができます。
同僚や後輩に何かを伝える時、 「この人には、どのスタイル(指示・支援・参加・達成)が一番響くだろうか?」 と一瞬だけ考えてみる。その小さな意識と行動の積み重ねが、あなたを素晴らしいリーダーへと成長させ、薬局というチームを、もっと強く、もっと良い場所に変えていく力になると思います。


【2025年11月号 Vol.7 Pharmacy-Management 】