組織・人材育成

ちゃんと覚えないと大変なことになるのに!

組織力が高まるケーススタディ
株式会社メディフローラ 代表取締役 上村 久子
新年度から半年が過ぎました。新人が少しずつ基本的な動きを覚え、ある程度独り立ちできる状態になってほしい時期ですね。ところが、先日も 「11月に入ったのに、まだ清拭の準備すらできないのです」 と落胆した表情で語る教育側からの声を伺いました。近年では教育に関する様々なご相談を耳にすることが多くなったと感じています。
今回は、教育担当として励む看護師さんとの対話から、教育者として意識したい 「教育」 に対する考え方について学んでいきたいと思います。

ケース

「新人教育に悩んでいるのです。一生懸命伝えているのですが、一向に覚えようとしてくれなくて……」 と語るのは、大都市にある透析クリニックで看護管理者として働くAさん。

筆者 「新人教育に悩む声は本当によく伺います。最近あった具体的な新人さんとのエピソードを教えていただけませんか?」

Aさん 「新人さんの手技がとても危なっかしくて。 『こうしないと大変なことになるかもしれない!』 と真剣に覚えてほしいので、リスクを伝えているのですが、どうも響いていないようで行動が変わらないのです」

筆者 「なるほど。看護管理者としては新人さんに成長してほしいことはもちろん、患者さんに悪影響を与えるわけにはいきませんから、しっかりリスクを把握して業務に向き合ってほしいですよね。新人さんにリスクを伝えた時、どのような反応なのですか?」

Aさん 「その場では 『分かりました』 としおらしくするのですが、また同じような状況の時にそっと近くで見ていると行動が変わっていないことを確認して落胆する……その繰り返しです」

筆者 「そうなのですね。ここで、今までの新人さんとのやり取りを振り返りたいと思います。新人さんは、今は右も左も分からない状態だとしても看護師として成長したいと考えているのですよね?」

Aさん 「はい、口頭では 『頑張って一人前になりたいです!』 と言いますし、一生懸命仕事をしたいと思っていることは伝わってきます」

筆者 「では教育者であるAさんに質問です。先に教えていただいたご指導の内容では 『こうしないと大変なことになるかもしれない!』 とリスクを強調しているようですね。リスクを強調することで 『怖いからちゃんとしよう!』 と新人さんが思って行動が変わることを期待したのだと思いますが、そうはならなかったようです。恐らく、新人さんには 『リスクによる怖さ』 は伝わらなかったようです。なぜだと思いますか?」

Aさん 「なるほど……、先輩はリスクを強調するけど今まで行ってきた方法で何もアクシデントは起こっていないから、リスクがあることが自分事に思えないのか……」

筆者 「そうですね。自分が心から 『これは危ないからやめよう!』 と思えないと、 『怖い』 ことに起因する行動変容は起こりにくいと思います。Aさんが教えたかったのはリスクの怖さではなく、正しい手技だと思うのですが、その点はいかがですか?」

Aさん 「その通りです。知らず知らずのうちに 『新人さんがミスを起こしたらまずい!』 という考えが私の中で大きくなり、新人さんに脅すように怖さを強調した教育を行っていた気がします。覚えてほしいことは 『正しい手技』 です。私がリスクを強調したところで新人さんがリスクを自分事にすることができず、その後に伝えた手技も頭に残らないことになっていたのかも……」

筆者 「教育する時に 『目的』 を意識してみましょう。先の事例だと、事実としてAさんの教育の目的が 『正しい手技』 ではなく 『リスクの怖さ』 に変わってしまっていたのではないかと思います」

Aさん 「ありがとうございます!教育を行う際に 『目的』 を意識して行ってみたいと思います」

このケース、どのような感想を持ちましたか?教育者として良かれと思ってリスクを強調した教育になることはあると思います。そして、そのことで教育を受ける側が変化する場合ももちろんありますが、必ずしもそうであるケースばかりではないようです。決して 『リスクを伝えることがダメ』 と言っているわけではありません。リスクを伝えることは大切だと思います。ただし、相手の行動を変えたいからと言ってリスクばかり強調しても、相手が行動を変えるかどうかは別の問題です。しかし、このケースのように 「リスクを強調しても変わらないのは理解力 のない相手に問題があるのではないか」 と考える教育者は少なくないように思います。
効果的な教育を目指すなら、教育する際に 「目的」 を意識されてはいかがでしょうか。意識するゴールが明確になっているほうが、今回のように 「相手に理解と変化を促す教育をするつもりが、リスクを強調して脅してしまった」 ということになりにくいと考えます。教育は教育者と教育を受ける者の両者で成り立つものです。どちらかの思いが強すぎる場合、バランスが取れず効果が出にくいようです。今後の教育のご参考になれば幸いです。


【2025年12月1日号 Vol.15 メディカル・マネジメント】