病院・診療所
最低賃金アップで経営悪化は不可抗力
データから考える医療経営
株式会社メディチュア 代表取締役 渡辺 優
■最低賃金アップで看護補助者の募集賃金も引き上げに
インフレ・物価高の影響で、最低賃金は過去最高の引き上げとなった。全国加重平均は、昨年の1,055円から1,121円に上がり、66円アップとなった。最高は東京の1,226円、最低は高知、宮崎、沖縄の1,023円で、全都道府県で1,000円を超えた。大幅な引き上 げは、早速、医療人材の給与にも影響を及ぼし始めた。10月中に最低賃金が引き上げられた地域を対象に、2024年1月から2025年11月までのハローワークの求人票を基に、看護補助者の募集賃金(時給換算)と最低賃金の推移を見た=グラフ1=。
グラフ1 看護補助者の平均募集賃金と最低賃金の推移

ハローワーク インターネットサービス求人情報を基に作成
※2025年10月中に最低賃金を引き上げた都道府県を対象
※募集賃金は求人票の募集賃金(下限)の時給換算した金額の平均値
※最低賃金は都道府県別求人票数に応じた加重平均値
募集賃金は確実にアップしている。2024年4~6月時点の平均1,140円に対し、直近は1,204円で、64円アップした。2024年6月の診療報酬改定以降、看護補助者の点数は変わっていない。つまり、診療報酬による収入は変わらないものの、看護補助者の人 件費は増えたことで、経営悪化につながった可能性がある。ただし、グラフ1はあくまでも求人票ベースのため、募集賃金を引き上げても採用できていないケースも含まれる。
グラフ2 看護補助者の平均募集賃金と最低賃金の差額推移

ハローワーク インターネットサービス求人情報を基に作成
※2025年10月中に最低賃金を引き上げた都道府県を対象
※募集賃金は求人票の募集賃金(下限)の時給換算した金額の平均値
※最低賃金は都道府県別求人票数に応じた加重平均値
そこで、募集賃金と最低賃金の差額の推移を見た=グラフ2=。募集賃金の引き上げにより、2024年7~9月に135円まで広がった差額は、2024年10月の最低賃金アップで112円に縮まり、2025年10月の最低賃金アップで82円にさらに縮まった。差額が縮まったことで、給与面で他産業との差別化が図りにくくなり、相対的な魅力が低下した。おそらく募集賃金を引き上げても思うように人材が確保できない医療機関が増えているのではないだろうか。
■最低賃金や人事院勧告と連動する 「仕組み」 の導入を
2025年6月に閣議決定された 「経済財政運営と改革の基本方針2025」 では、最低賃金を2020年代に全国平均1,500円まで引き上げる目標が示された。現状ですら最低賃金の上昇が病院経営を苦しめていることを踏まえれば、先行きは厳しい。また、公立病院 においても、約20年にわたり0%台だった人事院勧告が2024年は2.76%、2025年は3.62%と高い水準になり、病院経営を苦しめている。こうした外部環境の変化に対し、病院経営が苦境に立たされることは制度設計の不備でしかない。制度の持続性を高める には 「物価連動制度」 「価格調整制度」 と 「積立金(準備金)制度」 =表=を導入すべきである。
表 物価変動や持続性担保のために導入すべき制度

筆者作成
まず、最低賃金や人事院勧告などの緩やかな物価変動に対しては、年金のマクロ経済スライドのような物価連動制度を取り入れるべきである。一方、米価高騰などの急速な物価変動に対しては、海運業界や航空業界の燃油サーチャージ制度が参考になる。例えば、日本の航空会社の国際線の運賃には、航空燃油のスポット価格と為替レートを考慮しサーチャージを定め、各国政府に申請、認可された燃油サーチャージを上乗せしている。航空燃油の価格変動を、乗客に負担してもらうことで、航空会社の経営に影響を与えないようにする仕組みである。診療報酬制度は、医療機関の適正な利益確保を目指す上で緻密に設計されてきた優れた制度であるが、環境変化への即応性には弱いという側面を持つ。
もうひとつの積立金制度は、病院が持続性担保のために財務的余力を持つことを目的とする。その財源は、患者に広く薄く負担を求める形で確保すべきである。損害保険会社の異常危険準備金制度を参考に、積立限度額や益金・損金算入のルールを設定することで、単年度の収支変動に左右されない安定経営が可能になる。医療の非営利性を鑑みれば、非課税の積立金制度は合理的であり、医療提供体制の持 続性担保に資するものと考える。
【2025年12月15日号 Vol.16 メディカル・マネジメント】
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