保険薬局

学びを現場に定着させる6つの仕掛け

薬局経営に求められる組織開発
株式会社 pharmake 代表取締役社長 田口 恵実

学びは 「知った」 で終わらない

研修や勉強会に参加した直後は、誰もが 「よし、やってみよう」 と思います。しかし日常に戻ると、忙しさや慣れたやり方に流され、せっかくの学びが消えてしまうことは少なくありません。管理薬剤師として新人や若手に研修機会を提供しても、「あれ?行動が変わっていないな」 と感じることはないでしょうか。
心理学の研究では、行動が実際に変化し定着するには時間がかかるとされています。「無関心期→関心期→準備期→行動期→維持期→再発防止期」 という6つのステップを経て、ようやく行動変容が持続する状態に至ります。知識を得ただけではまだ 「関心期」  にすぎず、「行動期」 に移るまでには半年かかることもあります。だからこそ、学びを行動として定着するには 「やる気次第」 としてしまうのではなく、人が自然と続けたくなる仕掛けを設計する必要があるのです。

なぜ人は  “はまる”  のか

そこで今回は、学びの定着へのヒントとして、アダム・オルターの著書 『僕らはそれに抵抗できない』 (ダイヤモンド社,2019年)を参考にお話ししてみようと思います。ゲームやSNSといった “つい夢中になってしまうもの” には、なぜかやめられない理由があります。この本では、人がはまってしまう仕掛けを6つの要素に整理しており、本来は依存を説明するためのものですが、学びを続けやすくする環境づくりにも応用できます。
例えばSNSでは、ストーリーズや短い動画が次々と再生され、「あと1本だけ」 と思ったのに気づけば次の投稿が流れてくる。シリーズ投稿に番号が付いていると 「次も見なくては」 と思ってしまう。赤い通知バッジに 「未読1件」 と出ると、ゼロにするまで落ち着かない。こうした仕掛けが、見る側の私たちを惹きつけてやめられなくさせています。ゲームのステージが少しずつ埋まっていく画面は進捗を実感させ、気づけば夜更かししてしまうことさえあります。しかも課題は少しずつ難しくなり、挑戦心を刺激する。さらに 「次回のアップデートで新機能解禁」 などのクリフハンガーが仕掛けられ、続きが気になってやめられません。そして何より、友人とスコアを比べたり、SNSで 「いいね」 をもらったりする社会的相互作用が、人を強く惹きつけます。
私たちはこれらの仕掛けに抗えず、夢中になってしまうのです。では、この “はまる仕組み” を、学びの定着に活かすことはできないでしょうか。

学びに応用できる6つの仕掛け

オルターが示す6つの要素は、次の通りです。
1.明確な目標(Goals)
漠然と 「もっと頑張ろう」 ではなく、「今週は新人への声かけを一回増やす」 など小さく具体的な目標にすると続けやすい。

2.即時のフィードバック(Feedback)
患者さんの安心した表情や同僚の 「ありがとう」 の一言など、その場で返ってくる反応が行動を強化する。

3.進捗の実感(Progress)
学びノートやチェックリストに 「できた」 を積み重ねると、自分の前進が見えてやめにくくなる。

4.難易度のエスカレート(Escalating challenge)
基本から始め、徐々に難しい課題に広げると挑戦心が持続する。最初から難しすぎると挫折してしまう。

5.クリフハンガー(Cliffhangers)
「次回は〇〇を取り上げます」 「やってみた結果をまた共有しましょう」 と予告や宿題を残すと、次につながる。

6.社会的相互作用(Social interaction)

仲間と声をかけ合い、体験を共有することで学びは個人からチーム全体の文化へと広がる。

成果と雰囲気のバランスをとる

この6つを学びに応用すると、成果と雰囲気の両立が可能になります。明確な目標や進捗の実感、適切な難易度設定は業績や達成感を支えます。一方で、 即時のフィードバックや社会的相互作用は心理的安全性を守り、安心して挑戦できる雰囲気を育てます。さらにクリフハンガーは 「次もやってみよう」 という期待感を生み、学びを継続させます。
学びを 「努力して続けるもの」 ではなく、「自然とはまってしまうもの」 として設計すること。これこそが、現場での行動変容を支え、薬局やチームに成長の文化を根づかせる鍵になるのではないでしょうか。

おわりに

学びは努力で 「続けよう」 と思うだけではなかなか定着しません。人がついゲームやSNSに夢中になってしまうのと同じように、「やめられない仕掛け」 を取り入れることで、学びは自然と日常に溶け込みます。明確な目標、即時のフィードバック、進捗の実感、段階的な難易度、次が気になる仕掛け、仲間との関わり。これらの要素を組み合わせることで、成果を高めつつ心理的に安全な雰囲気を両立させることができます。学びを “はまる仕組み” として設計することが、薬局やチームの未来を支える力になるのです。
次回は、これまでのコラムで扱ってきた要素を振り返りながら、どのように日常の仕組みに落とし込み、組織の成長につなげていけるのかを整理してみたいと思います。
(参考文献:アダム・オルター 『僕らはそれに抵抗できない』 ダイヤモンド社,2019年)

【2025年12月号 Vol.8 Pharmacy-Management 】