組織・人材育成

話しがズレていく…

組織力が高まるケーススタディ
株式会社メディフローラ 代表取締役 上村 久子
診療報酬改定の議論の中で 「チーム医療を推し進めていくことで、治癒の過程などアウトカムが良くなるのではないか」 という趣旨の意見が出てきました。確かに、医療という専門職種が集まる現場で、それぞれの専門性が最大限活かされることで医療の 質が高まっていくことは容易に想像ができますし、医療従事者のモチベーションの向上も期待できると考えます。しかし、専門家であるか故にそれぞれの職種で 「見えている景色が少しずつ異なる」 ことで治療のための意見が対立することや、時に同じ職種 間であっても考え方の違いから衝突することがあります。「患者さんにより良くなってほしい!」 という願いは共通だったとしても、それまでの道のりをどう進んでいくのかという足並みや方向を合わせるためのコミュニケーションは、医療現場に欠かせない 組織作りの要素です。
今回は、「院長先生とのコミュニケーションが上手くいかないと悩む看護師さんとの対話」 から、組織をより良くするためのコミュニケーションのあり方について学んでいきたいと思います。

ケース

南にある地方都市で長年続いているクリニックでのお話です。このクリニックの離職率は低く、長年働いているスタッフが多くいらっしゃいます。そのため、「スタッフ同士はお互いに人となりを理解し合っている」 と言います。
このクリニックでも特に勤務歴の長い看護師A さんから声が掛かりました。

A看護師 「うちの院長はとても良い先生なのですが、ちょっと変わっていて……まあ、慣れっこなのですけどね」

筆者 「そうなのですね。具体的にどのようなことがあるのですか?」

A看護師 「基本的に話し合いはできているのですが、院長が気になった事象があるとすぐに話がズレていってしまうのです。
例えば、先日看護師Bが非常勤医師を怒らせてしまったことがありました。看護師Bが非常勤医師に伝達した事項に不手際があり、非常勤医師が激怒して看護師Bが泣いてしまい、その後の勤務継続が困難になってしまったのです。確かに看護師Bの不手際もありましたが、激怒するような事象ではありません。感情の沸点が低く、カッとなってしまうことの多い非常勤医師の指導をお願いするために院長にこのことを伝えたのですが、院長は 『ん……?なんで看護師Bさんが伝達したの?』 と、私が相談したいことではない内容が気になったようで、話がズレてしまいました……。いつもというわけではないのですが、このような困っている事象について相談ができず、解決に至らないことがあるのです」

筆者 「そうなのですね。そのように課題が残ってしまうことで、組織にとってマイナスの影響が出ることも懸念されます。長年の関係性の中で院長先生と対話するために工夫したことはありますか?」

A看護師 「工夫ですか……。正直に申し上げて 『工夫をする』 という概念がありませんでした。だってそれが院長の思考回路だし、いい歳の大人の男性を変えることはできないので、ある意味諦めていました」

筆者 「質問の仕方を変えましょう。先ほどのケースを振り返ってみて、もう一度同じ内容の相談を院長先生に行うとしたら、どんな工夫ができると思いますか?例えば、話の順番に気を付けたり、話の目的を明確にする、端的に伝えるなど、一般的なコミュニケーションを円滑に行うための工夫に当てはめてみるとどうでしょうか?」

A看護師 「なるほど……(しばらく考えて)いつも院長に相談をする際に、時系列に 【何があったのか】 を伝えているけど、具体的に 【院長にどうしてほしいのか】 は 【察してほしい】 と思い、しっかり言葉として伝えていなかったかもしれません。そもそも何の相談なのかという大前提を伝えてから話をするということをしていませんでした……」

筆者 「とても良い振り返りですね!話がズレてしまうというよりは、同じ内容を伝えていてもAさんの伝え方だとAさんの相談したい内容が伝わらず、院長先生が聞きたいように聞ける環境になってしまっていましたね。もちろん院長先生の聞き方も工夫ができると良いですが、Aさんがおっしゃる通り相手を変えることは難しいということを考慮すると、自分ができる工夫から試してみませんか?今度からどのようなことに気を付けていきましょう?」

A看護師 「まず、相談する時には 【院長にどうしてほしいのか】 という話の目的を先に伝えてから、【何があったのか】 を伝えて、もう一度 【院長にどうしてほしいのか】 を伝えるようにしたいと思います」

筆者 「良いと思います!もちろん今まで身体に沁みついている言動を変えることは難しいと思いますが、意識することから少しずつチャレンジしてみましょう」

このケース、どのような感想を持ちましたか?このケースとは反対に、院長先生から 「スタッフに話が通じない」 というご相談をいただくこともあります。いずれのケースも本質的には 「お互いに話題にしたい内容を揃えるための工夫が欠けている」 ため に起こっているケースが多いことを感じます。色々な背景を持つ人が集まる組織ですから、「普通に考えて、この事象であればここが問題だろう」 と思うことが異なることは少なくありません。
顔を合わせて対話をしていても、同じ物事について話をしているとは限りません。 「話がズレていくことがあるな」 と感じたならば、コミュニケーションをさらに改善するチャンス!対話を振り返ってみてはいかがでしょうか?


【2025年12月15日号 Vol.16 メディカル・マネジメント】