組織・人材育成

医療機関における従業員エンゲージメント向上

人事・労務 ここは知っておきたい
株式会社ToDoビズ 代表取締役 篠塚 功
先日、企業のコンサルティングをされている方と話をしていたら、企業は、ウェルビーイングの推進において、社員のエンゲージメント向上を目指し、 「Employee Engagement Survey」 に力を入れ、定期的に社員へのアンケート調査をしているとのこと でした。この話を聴いた時に、30年前、米国の病院グループの人事部で研修を受けた時のことを思い出しました。当時、病院の廊下などに、「EMPLOYEE OPINION SURVEY」 と大きく書かれた箱が置かれ、そこにアンケート用紙を投入するようになっていました。そして、経営会議で、アンケートの回収率が低い部署の責任者が注意されていたのをよく覚えています。職員が、病院や仕事、処遇等に対して、どのような意見を持っているかを定期的に調査し、それを基に改善していくという強い姿勢を感じました。
従業員エンゲージメントという概念は、1990年代米国のギャラップ社が提唱したのが始まりですから、研修を受けた時は米国の病院などがエンゲージメントを気にし始めた頃だったのでしょう。そこで今回は、医療機関における従業員エンゲージメント向上について考えます。

従業員エンゲージメントの定義と理念の共有

従業員エンゲージメントとは、職員が、病院や仕事に対して、主体的に関わり、信頼や愛着を持って、自発的に貢献しようという意識や心理的な状態を言います。単なる満足度や組織への忠誠心とは異なり、個人と組織が双方向に成長へ貢献し合う関係性を表す概念と言えましょう。
従業員エンゲージメントを高める施策としては、理念を共有することが先決です。日本医療機能評価機構が 「理念・基本方針を明確にしている」 という評価項目を示してから30年経ち、医療機関でも、「地域医療に貢献する」 など、その地域における自院の存在意義が示されるようになりました。この理念を職員と共有することで、職員は、日々の業務に誇りを持ち、目的意識を持って仕事に励むことができます。そして、組織の理念と併せて、人事理念も職員に理解し共感してもらうことで、従業員エンゲージメントを高めることになると考えます。
人事理念とは、職員にとっての病院等の存在意義ということになります。看護師という国家資格を持つ職員は、どこの医療機関で働いてもいいわけですが、その中から、1つの病院を選び働き続けるには、自分にとっての存在意義が必要です。例えば、「職員がいつも笑顔で働き、成長し続けられる組織をつくる」 という人事理念を示し、その理念の実現に向けて、様々な施策を実行する中で、看護師は、その理念の実現を信じ、その組織で働き続けたいと思うに違いありません。組織の理念と人事理念を明確に示し、そのことを組織に浸透させることが、従業員エンゲージメントを高めるための第一歩と考えます。
ちなみに、支援している病院では、人事考課の中に、 「理念の実践」 という項目を入れ、自らの役割行動が、病院の理念に沿って行われているかを評価するようにしています。他にも、院内研修会の都度、幹部から繰り返し伝えることや、幹部自らが理念に沿った行動を常に心掛け、模範を示すことなども浸透させる上で大事です。

従業員エンゲージメントを高める様々な施策

従業員エンゲージメントを高めるには、理念の浸透の他に、冒頭で示した 「Employee Engagement Survey」 を定期的に行い、その結果から見えてきた課題に取り組むことも必要です。例えば、「①職場での自分の役割や期待されていることを理解していま すか」 という質問の結果が悪ければ、部署の管理職が十分に職員に伝えていないわけですから、人事考課の面接等を通じて、伝えていくようにしなければなりません。「②業務改善や患者ケア等について、自分の意見が真摯に聴かれ、尊重されていると感じますか」 という質問の結果がよくなければ、心理的安全性のある職場作りに努めなければなりません。「③職場に、自分の成長やキャリアを支援してくれる人がいますか、④この1年間で、専門知識やスキルを学び、成長する機会がありましたか」 という質問に対して、よい回答が得られない場合は、キャリア支援の仕組みに問題があるということになります。「⑤1週間以内に、上司や同僚から自分の仕事ぶりを認められたり、感謝を伝えられたりしましたか」 という質問に対し、悪い傾向があれば、お互いを尊重し称え合う風土作りを進める必要があります。「⑥勤務時間や休暇制度は、心身の健康を保つのに十分だと感じますか」 という質問に対しても、よい回答が得られなければ、働き方改革をさらに推進する必要があるでしょう。
これらの質問例から分かるように、従業員エンゲージメントを高めるためには、理念と使命感の共有、心理的安全性のある職場作り、キャリア支援の仕組み、承認文化の醸成が重要であり、また、これらの心理的要素に加え、働き方改革のような物理的要素もその土台として忘れてはならないと考えます。


【2025年12月1日号 Vol.15 メディカル・マネジメント】