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2024年の最低賃金と今後の対応

最低賃金の概要と最近10年間の引き上げ状況
株式会社To Doビズ 代表取締役 篠塚 功
2024年の最低賃金が10月から適用されるため、その対応に苦慮している医療機関もあると思われます。筆者が支援している病院からも、先日、今後の対応についての相談を受けました。診療報酬という公定価格で、多くの労働者を確保して経営をしなければならない医療機関にとっては、毎年、最低賃金が引き上げられては、人件費増が経営を圧迫していくことは目に見えています。
そこで、今回は、最近の最低賃金の引き上げの状況を確認するとともに、その対応について考えます。

最低賃金の概要と最近10年間の引き上げ状況

最低賃金とは、国が最低賃金法に基づき、使用者が労働者に支払う賃金の最低額を定めたものです。最低賃金は、時間によって定められており、都道府県ごとに定められた 「地域別最低賃金」 と、特定の産業に従事する労働者を対象に定められた 「特定(産業別)最低賃金」 の2種類があります。後者が適用される産業は、地域によって異なりますが、製造業が多く、現時点では、医療機関は気にしなくてもよいでしょう。
使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に、最低賃金額以上の賃金を支払わなければなりませんし、最低賃金の適用を受ける労働者の範囲と、これらの労働者に関係する最低賃金額、算入しない賃金、さらには効力が発生する年月日を、つねに作業場の見やすい場所に掲示するなどの方法により周知する必要があります。
適用を受ける労働者は、原則すべての労働者です(最低賃金の減額の特例許可はある)。算入しない賃金は、①臨時に支払われる賃金(結婚手当など)、②1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)、③時間外割増賃金、休日割増賃金、深夜割増賃金など、④精皆勤手当、通勤手当及び家族手当となります。
参考までに、2015年~2024年までの10年間の最低賃金の推移と一般労働者(パート職員除く)の所定内労働時間数の推移を図にしました。なお、所定内労働時間数は、厚生労働省の資料から抽出しましたが、2023年、2024年についてはデータがなかったため、2022年の時間数を仮に置いています。
最低賃金は、全国加重平均の金額ですが、2024年は1,055円で、2023年と比べ51円という過去最大の引き上げ額となっています。この金額に、所定内労働時間数を掛けて月額の引き上げ額を算出すると、51円×1782時間÷12=7,574円となり、月額7,500円以上の賃上額となるわけですから、使用者にとっては、人件費増を危惧せざるを得ません。この場合の月額給与としては、1,055円×1782時間÷12=156,668円となります。ちなみに、2015年では798円×1849時間÷12=122,959円となり、働く時間は短くなっていますが、賃金は3万円以上も上がる計算となります。

図:最低賃金と所定内労働時間の推移


最低賃金への今後の対応

最低賃金への対応としては、医療機関においては、賃金水準の低い職種である看護補助者や事務職の賃金改善を行うことが必要なところもあると思われます。この際、低い職種はベースアップを行い、その職種の賃金水準を全員公平に上げることが理想ではありますが、それが困難な場合には、賃金の低いところだけ、調整手当等で引き上げることが考えられます。
しかし、今後も最低賃金が引き上げられていくとすれば、人件費が膨張しないよう、別の対応も必要と考えます。例えば、次の3つの対応が考えられます。①看護補助者などの低い賃金を見直し、看護師の業務を看護補助者にシフトし人員の配置を見直す。すなわち、看護師の人数を減らし、その分看護補助者を増やすなどして、人件費増を抑えます。②所定内労働時間の短縮を目指す。国家公務員が週休3日制の検討を進めている今日、週休3日制を労働時間の短縮と合わせて導入することで、最低賃金をクリアしてはどうでしょうか。③賞与や退職金の原資を月額賃金に持っていく。他院と比べて賞与額の大きな医療機関では、この部分を月額賃金にまわすことで、最低賃金をクリアすることが考えられます。このことは、退職金についても同様のことが言えます。人件費増を抑えながら最低賃金をクリアするための対応が、今後は一層求められますが、この対応を契機として、生産性向上等も図ることができれば、最低賃金の引き上げは、職員だけではなく組織にとってもよい面があると期待します。


【2024. 10. 15 Vol.602 医業情報ダイジェスト】