病院

第14回 経営計画の策定

実践的病院経営~経営計画の具体的内容について~
株式会社前進  代表取締役 岡本 有

[経営計画の具体的内容]

前回は、収支改善の3要素(図1参照)のうち、「新規入院患者の増加」について説明しました。今回は、2番目の「制度の適正な運用」の具体的な方策・内容について説明します。



[制度の適正な運用]

「制度の適正な運用」の主な項目は、診療報酬制度、病床編成、診療科構成、ベッドコントロールです。それぞれの項目は、互いに関わり合っています。診療報酬制度は全ての項目に関わり合いがあります。病棟編成についても、入院料の区分とマーケットの動向をよく見極めて策定していかなければならないことは、本稿の第6回で、また、病棟編成と診療科構成との関係については本稿の第7回、第8回で詳述しました。診療報酬制度の運用については、この他届出医療をいかに充実させるかという課題もありますが、これは次回以降に譲り、今回はベッドコントロールについて説明します。

[ベッドコントロール]

ベッドコンロールの本質は、収入の最大化のために、「診療単価」と「稼働率(延入院患者数)」(両者はトレードオフの関係にあるのですが)のバランスをとるということです。ただ、実際にはいかにしてベッドを埋めるかということがまずは課題になります。稼働率が80%台では、安定した黒字化は困難です。新規患者がふんだんに確保できる病院では、短い在院日数でも満床になりますが、実際はそうはならない病院が多いのではないでしょうか。
ベッドを埋めるためには まずは病棟がガラガラである現状を直視し、それを全従業員と共有化し機動的に対応することが重要になってきます。
ベッドコントロールの中心になるのは看護部です。1日に1回は看護部・事務がベッドコントロールの打合せを行い、情報の共有化と関係個所への発信を行うことが必須条件です。ある病院では毎日のベッドコントロールミーティングを徹底した結果、前年度80%台であった稼働率を95%にまで高めることができました。
情報の共有化と発信のためには、ベッドの状況を可視化するツールが必要です。その一例が図2です。



病室・病床の一覧表をつくり、そこに入院中の患者の属性を記入、退院予定日にあわせて、入院待ちの患者をあてはめていきます。これにより、現状の把握と将来の予想がつくのです。
例えば、1週間後ベッドが空くことが予想されれば、入院患者の退院時期を遅らせる、救急患者を積極的にとる、待ち患者の入院時期を早めるなどの対策をとるよう、医師、看護師、入院係などに指示を出し機動的に対応することにより、ベッドがガラガラになることを防げます。

[診療単価と稼働率の両立]

ただ、ベッドを埋めて稼働率を上げても、いたずらに在院日数を延ばすだけでは、単価が下がり、DPC病院では効率化係数も低下し減収となります。
在院日数の管理は、出来高病院では、入院料の加算が高い「14日」が一つの目安になります。入院期間が14日以上になる患者を減らし、その分14日以内に退院する患者の在院日数を14日を限度に延ばします。
DPC病院では、「入院期間Ⅱ」が一つの目安になります。
入院期間Ⅲ超えの患者をなくし、入院期間Ⅰや入院期間Ⅱの初期に退院予定の患者の在院日数を入院期間Ⅱを限度に延ばします。患者の退院時期については、医師の癖も影響します。
とにかく早く退院させる医師もいれば、だらだらと入院させる医師もいます。このような医師の癖を入院期間Ⅱを目安に是正・標準化していくのです。
もう一つ、DPC病院の効率化係数を効果的に高める方法があります。それは、全国で患者数の多い疾患については、入院期間Ⅱを目安に在院期間を短くする、全国的に患者数の少ない疾患、または自院の年間の症例数が12未満の患者については、病床の空状況にあわせてコントロールするというものです。これは、効率化係数を決めるにあたって、全国的に患者数が多い疾患の在院日数の影響が大きく、年間12症例未満の疾患は対象外、また全国的に患者数が少ないマイナー疾患の在院日数の影響は小さいことによるものです。
ちなみに全国の診断群の件数ならびに平均在院日数については、厚生労働省の「退院患者調査」によりわかります。例えば、図3は全国で疾患件数の多いベスト5ですが、自院でこのような疾患を取り扱っているならば、その疾患については、極力全国の平均在院日数より短くなるように仕組むことが必須条件です。




【2022. 7. 15 Vol.548 医業情報ダイジェスト】