病院

【続き】骨太の方針2024における医療・介護の賃上げ方向性

ベースアップ評価料が無くなったら医療・介護崩壊へ
株式会社MMオフィス 代表取締役 工藤 高

■ベースアップ評価料が無くなったら医療・介護崩壊へ

骨太方針では賃上げに関して今回創設された 「ベースアップ評価料」 等の継続を示唆している。評価料は2022年10月から実施された 「看護職員処遇改善評価料」 につぐ賃金の改善実施を評価した点数になる。 「2年後にハシゴ外しがあるかも知れないので取得しない」 という医療機関も一部であるようだ。同じ機能で先輩格となる介護報酬の 「介護職員処遇改善加算」 は2011年まで実施されていた介護職員処遇改善交付金を引き継ぐ形で、2012年に運用が開始されてから12年間の歴史を持っている。現在もなくなっていないし、改定の度に配分は手厚くなっている。
もし、今回のベースアップ評価料が次回改定でなくなったら、ますます医療機関は低賃金に陥ってしまう。2022年版厚生労働白書では 「医療・福祉分野の就業者数(2021年現在891万人)は約20年間で410万人増加、約8人に1人が、医療・福祉分野で就業」 としているが、 「今後20年間で20~64歳人口は約1,400万人減少する見込み」 で、 「経済成長と労働参加が進むと仮定しても、2040年には医療・福祉分野の就業者数が96万人不足する」 と予測している。つまり、現在でも看護補助者や調理補助者、介護職員は低賃金で人が集まらない。継続的な賃上げを実施しないと、確実に需要が増加する医療・介護の仕事をだれも目指さなくなり、多くの人手を必要とする労働集約型産業である 「医療・介護崩壊」 になってしまうのは明らかだ。

■ 入院時食事療養費は手術点数のようにエビデンスはない

一般企業ならば商品の価格転嫁で値上げして、その分を賃金に回せば良い。たとえば 「日本マクドナルドは本年1月に商品店頭価格を10〜30円値上げすると発表した。これにより、ビッグマックは450円から480円になった。その理由は原材料価格や人件費の高騰、為替の円安が定着していることなどに対応するため。2022年以降、全国の店舗で一斉に値上げするのは4回目だ」 (日本経済新聞電子版2024年1月12日)と価格転嫁が行われている。ライフラインになる水道光熱費も同様である。
一方、改定で医療機関の入院時食事療養費が1食あたり30円引き上げられて670円になったが、これはなんと25年ぶりだ。手術点数は外科系学会社会保険委員会連合(外保連)作成による 「外保連試案」 に基づいて、タイムスタディーによる人件費や各手術に使用した材料費など、標準的な資源投入量を計算し、技術度、協力者数、所要時間等のデータに基づいてコスト算出が実施されている。
入院時食事療養費だけは食材材料費や水道光熱費の高騰は完全無視の四半世紀に渡る据え置きであった。これまではデフレ経済であったので良かったが、物価、人件費も上がるインフレ経済に変わったため、人材確保のためには骨太方針2024の賃上げが単なるスローガンに終わらないことが必要だ。


前の記事を読む 骨太の方針2024における医療・介護の賃上げ方向性


【2024.8. 1 Vol.597 医業情報ダイジェスト】