診療所

インボイス制度が医療機関に与える影響を考える

インボイス制度が開始されるまでに事前の調整が必要
あすの監査法人 公認会計士 山岡 輝之
最近では、監査先の医療機関からも消費税のインボイス制度への対応について相談等を受けることが増えてきました。会計監査を受けなければならない医療機関となりますと、規模が大きいことに加え、様々なサービスを提供していますから、今回のインボイス制度が与える影響や現場の負担は大きくなります。
ところで、医療機関といっても規模は様々ですが、皆様が経営するクリニック・病院ではインボイス制度導入で、どのような影響や課題があるか、顧問税理士などと打ち合わせはされていますか。インボイス制度がどのような制度であるかは顧問税理士やインターネット等よりご確認いただきたいと思います。

今回は、消費税のインボイス制度が医療機関に与える影響を考えてみたいと思います。

まず、消費税のインボイス制度により、自院が仕入等により業者に払った消費税(仕入税額控除と言います)に影響するかどうかという問題であることを理解する必要があります(仕入等とは、材料費だけでなく、支払経費や固定資産の購入による支払も含まれます)。令和5年9月までは、仕入税額控除を受けるためには、消費税等について正しく記載された区分記載請求書等を保存することが要件となっています(区分記載請求書等保存方式)。しかし、令和5年10月以降は、適格請求書等を保管することが要件となる適格請求書等保存方式(インボイス制度)に変更となります。この変更により、最も大きく異なるポイントは、インボイスを発行できる事業者が「適格請求書発行事業者」に限定されることです。そして、適格請求書発行事業者の登録を受け、インボイスを発行できるのは、消費税の課税事業者という点も重要です。免税事業者が発行することはできません。区分記載請求書までは消費税の免税事業者でも発行することが可能であったため、この違いが重要になってきます。

次に、医療機関が受ける影響を検討する上で、自院の状況について確認すべき点が2点あります。

1点目は、医療機関で通常、消費税の対象となる売上(課税売上)は主に、社会保険を使わない収入(自費収入)、物品販売、固定資産の売却等であり、保険診療収入は非課税となります。消費税の免税事業者になれる要件は、基準期間(前々年度などの対象期間)の課税売上高が1,000万円以下の場合となります。

2点目は、課税事業者が消費税の納税額の計算を行う場合、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の場合は、簡易課税制度を適用して納税額の計算を行うことができます。消費税の納付税額は、「納付税額 = 売上にかかる消費税 - 仕入にかかる消費税(仕入税額控除)」として計算します。通常は、取引(請求書や領収書ごと)に消費税額を集計して仕入税額控除額を計算しています。しかし、簡易課税制度の場合は課税売上に対して一定割合の課税仕入があったものとみなしてしまい、消費税の納税額を計算します。つまり、簡易課税制度は、課税売上高のみをもって簡単に納税額を計算する方法になります。

この2点から、自院のインボイス制度の影響を以下の3つに分けて考えることができます。それぞれのパターン別にインボイス制度の影響を解説します。

パターンA.自院は免税事業者である
免税事業者の場合、自院は消費税を納める必要がありません。ただし、このままではインボイスを発行することもできません。取引相手となる患者が個人事業者や法人で、消費税を納めている課税事業者である場合は、相手方がインボイスを受け取れないことで納付税額が増えることになります。医療機関でインボイスの発行が想定されるサービスとしては、健診や予防接種、治験など自由診療扱いとなるものです。免税事業者でありながら、このような収入が一定以上ある医療機関は、インボイスを発行しないため、取引相手となる個人事業者や法人が不利になる可能性があることに留意する必要があるでしょう。

パターンB. 自院は課税事業者だが、簡易課税制度を採用している
この場合は、自院が適格請求書発行事業者としての登録を行えば、取引相手が事業者であったとしても、インボイスを発行することで相手方はこれまで通りの仕入税額控除を計算することができます。そして、自院は簡易課税事業者であることから、インボイス制度開始後も、制度の変更による納付税額に影響はありません。パターンBが最もインボイス制度の影響が小さくなります。

パターンC.自院の課税売上が5,000万円超である
この場合は適格請求書発行事業者としての登録を行うことで、取引相手に不利益を与えることはなくなります。一方、自院の消費税の納付額への影響として、取引先が適格請求書発行事業者の登録を行っていなければ、これまで通りの仕入税額控除を受けられなくなります。そうなると税負担が大きくなりますので、取引先が小規模の個人事業や企業である場合には、インボイス制度が開始されるまでに事前の調整が必要になるでしょう。

いかがでしたか。インボイス制度を正しく恐れ、しっかりとした準備対応で乗り切りましょう!


【2023. 1. 1 Vol.559 医業情報ダイジェスト】