組織・人材育成

医療機関におけるウエルビーイングの推進

人事・労務 ここは知っておきたい
株式会社ToDoビズ 代表取締役 篠塚 功
高市早苗氏が自民党総裁選に勝利し、日本初の女性総理大臣の誕生も間近のようです。新総裁は、総裁選勝利後の挨拶で、 「ワークライフバランスを捨てます。働いて働いて働いてまいります」 と述べ、党所属議員にも 「馬車馬のように働いていただきます」 と呼びかけましたが、これに対しては賛否両論あるようです。筆者は30年前、研修会で、医療従事者はノブレス・オブリージュの精神を持つべきだと述べ、一部の出席者から批判を受けましたが、 「総理という一国を預かる地位と職責を担う者であれば、自己犠牲をともなっても、公共のために尽くす」 精神は必要と考えます。問題点は何かと言えば、企業においてウエルビーイングを重視している時代に、自分だけでなく自民党議員にも、同じことを要求した点にあるように感じます。 そこで今回は、医療機関におけるウエルビーイングについて考えます。

医療機関におけるウエルビーイングの推進

2014年10月、医療法が改正され、医療従事者の勤務環境を改善するためのマネジメントシステムが導入されましたが、時代は進み、ウエルビーイングを重視する時代となりました。10年前は働き方改革であり、働きやすさを確保することが中心でしたが、ウエルビーイングということは、 「働きやすさ」 に加えて、 「働きがい(モチベーション・自己実現)」 も目指すことになります。
すなわち、ウエルビーイングの推進としては、働きやすさにおける身体的な面として、長時間労働の是正、有給休暇取得の促進等が考えられますし、精神的な面としては、意見を気軽に言い合えるような心理的安全性のある組織を作る、お互いの仕事や貢献を称え合うような組織を作るといったことが考えられます。そして、働きがいという面では、専門性の高い資格取得やその人の専門性を発揮できる機会の提供、新しい役割や仕事にチャレンジしやすい環境を作るなど、たくさんの施策が考えられます。
筆者は、10年前、医療従事者の働き方改革の研修を依頼された時に、講義の後にグループワークで働き方の現在の課題と解決策を協議し、その内容を発表してもらったことがあります。あれから10年、ウエルビーイングの推進が叫ばれる時代です。 「職員が笑顔で生き生きと働ける職場づくりプロジェクト」 を立ち上げ、医師、看護師、医療技術職、事務職など組織横断的にメンバーを選出し、医療機関も企業に遅れることなく、ウエルビーイングを推進してはいかがでしょう。

看護師のウエルビーイング向上の施策

先日、認定看護師等の資格手当についてお問い合わせをいただき、認定看護師の分野別手当額等を調べてお知らせしました。ちなみに、日本看護協会が2024年度に行った 「看護職員の賃金に関する実態調査」 では、認定看護師手当の有無については、  「ある」 が49.5%で、平均手当額は11,228円、専門看護師は 「ある」 が47%で手当額が11,857円、特定行為研修修了者は 「ある」 が30.5%で手当額が11,644円でした。専門性の高い看護師のウエルビーイングを考える際に、手当等処遇で対応する ことは、自分の専門性を認めてもらっていると感じられることから、多少の満足感が得られ、働きがいにつながるとは思いますが、これは一時的なものに過ぎません。昔、元同僚から 「専門看護師の資格を取ったが、その力を発揮できる仕事に就けていない」 と相談されたことを思い出すと、彼らのウエルビーイングを高める施策は別のところにあります。
看護師にとって、認定看護師等の資格を取得すること自体、自己のキャリアが明確となって成長を実感しやすいですし、資格に裏付けされた能力を発揮して、患者さんやご家族に感謝されることで働きがいを感じられます。そのため、専門的な資格取得の支援も、看護師のウエルビーイングを高める施策となります。ただし、注意が必要なのは、元同僚のように資格を取得しても、それを発揮する機会が得られなければ、逆に不満になるということです。
支援している病院では、管理職コースの他に専門職コースを設けており、例えば、感染管理の認定看護師が、感染管理の専門職として働きがいを持って活躍しています。年度当初に、感染管理の専門職としての活動計画を立て、自らの役割を明確にします。通常の看護業務もあるため、専門職としての活動は、週に1日決めた曜日に行います。院長の指示等も受け、研修等も自ら企画し、さらに感染対策チームの責任者としてマネジメントをするなど、生き生きと仕事をしています。
これらのことから、認定看護師等のウエルビーイングを高めるには、 「①役割の明確化、②専門活動に充てる時間の確保、③上司の理解と支援、④役割と本人の専門分野の一致、⑤研修等での活用、⑥チーム医療の中での責任ある役割」 といった環境 を整える施策が必要です。資格取得の支援とこれらの支援を併せて、看護師のウエルビーイング向上を目指してはいかがでしょう。


【2025年11月1日号 Vol.13 メディカル・マネジメント】