組織・人材育成

「やり方」 と 「あり方」 の話

組織力が高まるケーススタディ
株式会社メディフローラ 代表取締役 上村 久子
リーダーシップに関する学びの中でよく出てくるキーワードに 「あり方」 という言葉があります。 「あり方」 を辞書で引くと、 「正しい存在のしかた」 「本来あるべき姿」 「ありさま」 と説明されており、分かるような分からないような……。何となくの理解で使用している方も少なくないのではないでしょうか。
今回は、 「あり方」 に対する表現として出てくる 「やり方」 との対比に関する学びから、リーダーの 「あり方」 の正しい理解について学んでいきたいと思います。

ケース

クリニックを複数運営する法人で行われたリーダー研修でのお話です。 「組織がより良く改善していくためにはリーダーが重要だ!」 という法人代表の一声で、初めてのリーダー研修が行われたのでした。

1年間の研修期間のうち、約半分が過ぎた頃、参加者から質問がありました。

A院長 「すみません、 『あり方』 という言葉が度々出てきますが、それはどういう意味ですか?何となく分かるような分からないような……毎回モヤモヤしています」

講師 「とても良い質問だと思います。この研修でも何度か 『あり方』 という言葉が出てきていますが、どなたか説明できる人はおられますか?」

B院長 「(挙手をして)多分、 『あり方』 は心の持ちようや哲学で、 『やり方』 は実際の行動ではないでしょうか?」

講師 「ありがとうございます。A院長先生、今の説明で分かりましたか?」

A院長 「 『あり方』 って抽象的で分かりにくいと思うのです。具体的な 『やり方』 だけでよいのではないですか?」

講師 「とても鋭い指摘ですね! 『あり方』 と 『や り方』 、それぞれについて考えてみましょう」

C院長 「 『やり方』 だけでもよいのかもしれないが、それではそれしか出来ない人が作られるだけではないでしょうか。例えば、やり方として 『スタッフの出来ているところを褒めましょう』 と掲げるとします。この場合、ただ褒めればOKなのでしょうか。スタッフを褒めるという行為は、他人を認める証だったり、成長を促す行為であったり、成長しようとするスタッフに対する尊敬と感謝の気持ちの表れなど、色々な背景から来る行動だと思います。なぜ 『スタッフの出来ているところを褒めましょう』 というやり方が掲げられているのかが分からないと、気持ちが込められていない、ただの 『行為』 になってしまいます。例えば、普段あまりスタッフの勤務態度を見ていないリーダーから突然 『君、仕事が出来るようになったね』 と言われたところで、そのスタッフは 『いつも私のことを見ていないのに何が分かるのだ』 と不信感が生まれ兼ねません。やり方だけだと目指す組織に向かうに当たり遠回りになってしまうこともあるので、 『なぜそのやり方』 を行うのかという、心の持ちようや哲学である 『あり方』 は必要だと思います」

講師 「分かりやすい例えでしたね。A院長先生、いかがでしょうか?」

A院長 「(しばらく黙って)私は 『こうすればよい』 という具体的な行動を伝えることで、自ずとその背景を感じ取るものだと思っていましたが、必ずしもそういうわけではないことに気が付きました。うちのクリニックで 『挨拶をしよう』 と掲げていますが、一向に顔を上げずに小さい声でボソッと挨拶になっていないスタッフがいて困っていたのですが、そう言えば 『なぜ挨拶が必要なのか』 という話は、当たり前に分かっているものとしてしていませんでした……。 『あり方』 って大切なのですね」

この後、 「あり方」 と 「やり方」 をテーマにしたそれぞれのクリニックの課題や取り組みが具体的に出てきたことで活発な意見交換に繋がり、 「今までで一番心を動かされた研修でした」 という感想をいただくことになったのでした。

このケース、どのような感想を持ちましたか?リーダー研修では、よく 「あり方」 と 「やり方」 の議論が出てきます。そして、この議論終了後は組織間の結束が高まることが多いと感じます。それぞれのリーダー観が 「あり方」 に現れ、そして 「や り方」 に繋がるため、議論によってお互いの理解が深まるようです。
言うまでもなく、組織は多くの人が集まっている集合体です。様々な人が集まるということは、様々な価値観・考え方が集まっている状態ということ。その組織をひとつにし、ありたい姿を目指すには、その組織にいる人とはどのような人であるのか 「あり方」 があった方が、組織員が行動選択を行うに当たっての基準となります。さらに、 「あり方」 だけでは具体的な行動が分からない場合もあると思うので、 「あり方」 を説明するものとして 「やり方」 があると、より理解が深まり、より良い 行動に繋がりやすくなるはずです。そして、とても難しい挑戦になると思いますが、この 「あり方」 「やり方」 に関する議論が組織内で出来るともっと良いですね!
このケースがより良い組織作りの参考になれば幸いです。


【2025年11月1日号 Vol.13 メディカル・マネジメント】

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