財務・税務

病院建設を進める際の問題点について考える(1)

医療機関のガバナンスを考える
あすの監査法人 公認会計士 山岡 輝之
独立行政法人福祉医療機構(WAM)が毎年公表しているリサーチレポートでは、2024年度の病院建設費用の平米単価は442千円(前年度比+31千円)、定員1人当たり建設費用は25,656千円(前年度比+1,784千円)とされ、平米単価では2015年度と比較して1.5倍になっています。

図1:病院及び老健の平米単価の推移


図2:病院および老健の定員1人当たり建設費の推移

資料:独立行政法人福祉医療機構経営サポートセンター 「2024年度福祉・医療施設の建設費について」 より

建設費高騰の背景には、円安による輸入材料費や輸送コストの増加、慢性的な人手不足に加え、働き方改革による時間外労働の上限規制などの要因があります。
この影響もあり、医療機関の病院建設や建て替えを機に、財務状況の大幅な悪化や職員の離職により経営が困窮したり、医療活動に制限を受けたりすることを目にすることがあります。
これは、物価高騰の要因等の外部要因もあると思いますが、病院建設という医療機関にとって非常に大きなインパクトを与える機会にも関わらず、その判断や進め方についてやや慎重さに欠けるという内部要因の問題も大いにあるのではと感じることがあります。私見(独り言)になりますが、今回から2回にわたり、病院建設や建て替えを進める際の問題点について、内部要因を中心に考えてみたいと思います。

収支の見通しが楽観的

建設を進めるにあたっては当然、収支シミュレーションを作成し、利益や資金繰りに問題なく経営が成り立つか検討が進められます。私も立場上、このシミュレーション結果を見る機会があるのですが、どうしても収益や費用について懐疑的に見てしまいます。
まず収益について、診療単価で言えば、病院が新しくなっただけで年々上昇するようなシミュレーションを見ると、その段階で全く信用できない数値に見えてしまいます。患者数についても推計患者数を前提に 「将来患者は横ばい」 あるいは 「回復期患者はまだ増える」 というような設定を目にすることがあります。しかし、受療行動が将来も変わらないと言える確証はありません。また、患者数推計をもって自院の患者数までもが同じ傾向を示すとは限りません。
費用面では、人件費・経費の増加の見通しの甘さを特に感じます。将来の費用発生見込を網羅的につかむことは容易ではありません。しかし、職員数を現状と同値で配置するのであれば、当然に人件費は増加するし、委託費や管理諸経費等の費用が少なくとも建物が新しくなったことを理由に抑制される結果には先例から見てもなりにくいのではないかと思います。
このような批判的な視点を持ってシミュレーションを検討することは決して難しいことではありません。しかし、こうした収支計画を所与として投資が先に進んでしまうことはないでしょうか。建設することがマストであり、少しでもいい病院を建設したいと思うがあまり、見通しを甘く評価し、先に進めてしまいがちになっていないでしょうか。材料費や医療機器、委託費に対しては慎重に検討する一方で、ハードやシステムの投資となると何故か金銭感覚が緩んだ意思決定になっているような気がしてなりません。

(次号に続く)

【2025年11月1日号 Vol.13 メディカル・マネジメント】