保険薬局

PHRって知っていますか?

PHRが医療にもたらすもの
一般社団法人薬局支援協会 代表理事 薬剤師 竹中 孝行
最近よく耳にするキーワードとして「PHR」があります。PHRとはPersonal Health Recordの略であり、日本語では個人健康記録や生涯型電子カルテと呼ばれます。
と聞いても、「それって一体何なのか?」「私たちに何をもたらすものなのか?」、いまいちピンと来ない方も多いでしょう。
今回は、PH Rがどういったものなのか、私たち業界にどういった影響をもたらすのかという観点で紹介いたします。

■そもそもPHRって何?

PHRとは、各所にバラバラに存在している個人の健康に関わる情報(病院や薬局が保管している等)や個人が記録している日常的な健康関連データを本人が管理することを前提として1カ所に集約していくことです。本人が自由に情報にアクセスして健康状態を把握することができたり、状況に応じて医療関係者に共有することによって、ご自身の健康状態に合ったサービスを受けることに繋がります。
似たような言葉にEHR(Electric Health Record)があります。EHRは医療機関から出された電子カルテ上の情報や検査情報、レセプト情報などが含まれており、外部の医療機関と情報連携を意図して設計されている仕組みのことです。

■なぜPHRが注目されているのか?

少子高齢化の中で健康・医療・介護分野での利活用の視点が着目されて、2017年に厚生労働省中心にデータヘルス改革推進本部が立ち上がったことを転換点とし、2022年には医療DX推進本部が立ち上がり、国をあげてPHRが推進されている状況があります。

スマートフォンやウェラブルデバイスなどのデジタル技術の進歩とともに、PHRの市場規模は急速に拡大しています。スマートフォンを持っているだけで歩数を計測できていたり、食事の記録や睡眠の計測などの健康アプリなど、身近にPHRを感じられる機会が増えてきました。健康アプリが続かない私でも、最近リリースされた人気キャラクターの登場する睡眠の計測・記録アプリはゲーム感覚で継続できています。ゲーム感覚でありながらも、睡眠時間を意識するようになり、自身の健康管理に繋がっています。

■PHRが医療にもたらすもの

個人の健康データがすべてPH Rに記録できることから、医療を受ける際にご自身の情報を共有することで、適切な医療を受けることにつながります。昨今では、血圧や心拍数、体重などの記録できる健康アプリもありますし、禁煙や高血圧の治療などの医療的介入を目的として保険適用となった治療用アプリなどもあります。
また、PH Rによりご自身の健康状態をタイムリーに把握できることから、健康に対する意識が向上するといったメリットもあります。セルフメディケーションの意識が高まり、病気予防や重症化予防につながることが期待されます。

災害時や救急時にも、ご本人があらかじめ情報開示に同意していれば、健康情報をいち早く知ることができ適切な処置の準備を整えることができるようになります。

■業界にもたらす影響

処方せん1枚に記載されている情報と聞き取りをした情報でしか判断できなかったことが、PHRの普及によって、その方の様々な健康情報を収集することが可能になります。日常的に記録される血圧、心拍、血糖値、睡眠時間などを把握できます。また、オンライン資格確認や電子処方箋の普及によって、処方歴や検診情報なども把握できるように変わっていきます。

このように、さまざまな健康情報が得られますので、その情報をどのように活用して、どのようなサービスを医療者として提供できるのか、指導に繋げられるのか、今後は強く求められてくるのではないでしょうか。

■まとめ

今回は、PHR がどういったもので私たち業界にどういった影響をもたらすのかについて紹介いたしました。医療現場においてPHRの普及にあたっては、点在する個人の健康データをどのように収束させていくのかといった課題もあります。また患者本人が、スマートフォンなどで情報を管理することが前提なので、高齢者のスマートフォン所持率や操作性の課題もまだまだあるでしょう。しかしながら、国が推進していることもあり、今後、少しずつPH Rが進んでいくことは間違いないでしょう。

PHRの普及により得られる情報が増えることで、薬剤師の職能も拡がっていきます。どのように得られる情報を活用していくか、模索していきたいです。


【2023.11月号 Vol.330 保険薬局情報ダイジェスト】