財務・税務

病院建設を進める際の問題点について考える(2)

医療機関のガバナンスを考える
あすの監査法人 公認会計士 山岡 輝之
最近、ある医療機関が公表した新病院計画の進捗状況では、工期が建設計画から2年遅れることに加え、事業費が150億円上振れする見込みとなっていました。そのうち、設計変更等の見直しにより50億円の削減に見通しはついたものの、残りの100億円は新たな財源確保の捻出を検討しなければならないとされていました。100億円の財源を確保することは容易ではなく、この計画はこのまま前へ進めることになるのか、不足した財源を全て借入で調達することになったら、その後の収支計画は本当に成り立つのか、などといろいろ考えてしまいました。
このように、他の病院のこととなれば客観視していろいろと問題点も見えてくる一方で、これが自らの医療機関の建設となると想いが強くなり、なぜか冷静になれない――。こんなことはないでしょうか。
前号より、病院建設を控える医療機関が進める上で生じやすい問題点について考えてきました。引き続き、病院側である内部要因を中心に考えてみたいと思います。(11月1日号vol.13の 「収支の見通しが楽観的」 に続く)

批判的な視点が足りない

病院建設には、病院関係者のみならず、建設業者、コンサルタント、金融機関等、さまざまな関係者がプロジェクトメンバーとして参画します。いろいろな立場で参画することになりますが、批判的な視点をもってプロジェクトを見るメンバーが少ないのが気になるところです。建設に関してはCM(コンストラクションマネジメント)を入れる、あるいはそれに相当する有識者を入れて検討するなど、中立的な視点を入れながら検討されているところはあります。しかし、特に財務や収支に関する話には、批判的に意見をする、中立的な立場から問題点を整理検討するメンバーが少なくないかと感じることがあります。
頼みの金融機関も病院建設が進み、融資が実行されるまで特に意見をされることがない(少ない)ように思います。融資する側もかなりの額を融資するわけですので、当然に慎重に新病院の事業計画を検討した上で融資が進められたと思いたいのですが、融資段階で金融機関側からあまり厳しい意見が出てこないようにも思います。結果として返済が厳しくなった段階から金融機関が医療機関に対し、翻った態度をとるのは当然かもしれませんが、そもそもの計画段階でもう少し疑問に感じることはなかったのかと首をかしげてしまうこともあります。

ハードに対する過剰な期待

将来的に人口が減少し、将来患者数の減少も避けられない見通しの中、建て替え段階でも病床数の削減を前提とする見直しはしないなど、規模に拘った検討がされている資料を目にすることがあります。当然に収支計画も強気の現実離れした数値が並ぶことになります。
「一定規模の病床数がないと医者が集まらない」 「収支のバランスを確保するためには現在と同等の規模の病院は必要」 とされるような資料を見ますが、今でさえ病床が埋まらないのに、新病院になって患者数が増え、病床稼働率が増えるとする資料を見ると、一気にその計画の信頼度を疑ってしまいます。
「いい病院を作れば、職員が集まる」 という考えは一昔前の話なのかもしれません。現在の職員は働く環境、待遇、ワークライフバランスの両立を重視することから、きれいな病院で働けるなら収支改善のため、多忙な勤務環境でもやむなしとするような考えを持つ職員は少ないでしょう。しかし、この考えを多くの経営層の方々とお話しすると必ずといって耳にします。誰しもがより快適な勤務環境を望むのは当然です。しかし、新病院で働ける環境と引き換えに自らの待遇が犠牲になるのであれば、話は別であると考えなければなりません。

若い職員の意見を聞かない

建物をはじめとする固定資産は、ライフサイクルが長くなるため、建設計画を策定するのは今の経営者であっても、運営し借入金の返済責任を負うのは将来の経営者や職員というように、役割責任の担い手が最後まで一緒であることはないでしょう。とすれば、建設計画の策定段階から将来を担う若手の意見を聞き、計画に反映する機会があるべきではないかと思います。
病院の建設計画は、一部の経営層のみが大半を決める形で進むことが多いのですが、その経営層のうち、建物完成時に残っているメンバーは何人いるのだろうと思うことがあります。10年先には計画当時のことを知っている経営層は誰もいないかもしれません。
以前、新病院が完成した際にある理事長とお話しする機会があったのですが、 「この新病院建設の計画策定に私は関わってないんだから、私に借金の返済責任ってあるのかな」 と言われたことがあります。私にはショッキングで今でも鮮明に覚えています。
新病院はこの先何十年と運営を続けていかなければなりません。また、同じく借入金も長期にわたり返済していかなければなりません。その役目を誰が担うのかと言えば、将来を担う若い職員たちです。もし、これから病院を建設するような機会があれば、若い世代の意見も幅広く聞きながら計画していただきたいと私は強く思います。


【2025年12月1日号 Vol.15 メディカル・マネジメント】