病院・診療所

「辞めます」と言われてからでは遅い! ―院長のマネジメント力アップのポイント―

クリニック相談コーナー
合同会社MASパートナーズ 代表社員 原 聡彦

【相談内容】

開業3年目の内科クリニック院長から、次のような相談が寄せられました。
「開業して3年、開業時のスタッフが全員辞めてしまいました。当院の方針に合うスタッフにはできれば長く勤務してもらいたいのですが、なかなかうまくいきません。退職を申し出たスタッフに “やっぱり続けよう” と思い直してもらえる方法はあるのでしょうか?」

【回 答】

1. 「辞めます」 と言われてからでは、もう遅い
結論から言えば、スタッフが 「辞めます」 と口にした時点で、その気持ちを覆すのはほとんど不可能です。院長がどんなに誠実に話を聞き、条件を提示しても、すでに気持ちの整理がついていることが多いのです。なかには家庭の事情やキャリアの転換など、本人の努力ではどうにもならない理由もありますが、多くのケースでは 「日常の小さな不満や誤解の積み重ね」 が原因です。
したがって本当に大切なのは、 「辞める」 と言い出す前に “迷っているサイン” を察知し、日常的に声をかけられる関係を築いておくこと。そのためには、職場の雰囲気づくりとコミュニケーションの仕組み化が欠かせません。退職の相談が出てから慌てて話し合うのではなく、日頃から安心して話せる関係を保つことが最大の予防策です。

2.職場の雰囲気を高めるには 「何を止めるか」 を決める
職場の雰囲気づくりというと、 「何をやるか」 を考えがちですが、実は大切なのは 「何を止めるか」 です。どんなに素晴らしい研修や制度を導入しても、日常の言動が信頼を損ねていれば逆効果になります。たとえばジムに通っても食生活を改めなければ体は変わらないように、職場の空気も “マイナス要素” を放置したままでは改善しません。
弊社がこれまで300名を超えるクリニックスタッフの面談を行い、現場の声を集計した結果、院長やリーダーに 「やめてもらいたい行動」 として多く挙げられたのは次の3点です。

① 怖い雰囲気を出す
「注意を受けるときに、関係のない過去のことまで持ち出される」 「黙って怒っているように見えると怖くて声をかけづらい」 ――こうした声は非常に多いものです。時に厳しさも必要ですが、“恐怖の印象” は信頼の土台を崩します。スタッフは叱責よりも “納得できる説明” を求めています。

② 言うことがコロコロ変わる・他責的
「院長は夢(長期目標)ばかり語るが、今どう動けばいいかは示さない」 「結果が出ないとスタッフのせいにされる」 ――これではモチベーションは下がります。ビジョンを語ること自体は大切ですが、日々の指示に一貫性がなければ信頼は生まれません。

③ 聞く耳を持たない
「面談しても結局は先生の意見で終わる」 「話をしても意味がないと感じる」 ――この瞬間、スタッフの心は離れていきます。院長が “聴く姿勢” を見せるだけで、スタッフの表情や発言は驚くほど変わります。
この3つを “止める” だけでも、職場の雰囲気は確実に変化します。マイナスを減らすことが、プラスを積み上げる第一歩です。

3.個人面談の 「仕組み化」 で関係性を育てる
スタッフとの関係を深めるには、偶然の会話ではなく “仕組みとしての対話” が欠かせません。たとえば、ある整形外科クリニック(開業5年目)では、院長が月1回、部門リーダーや中心スタッフと個人面談を行っています。最初は 「忙しくて時間が取れない」 と感じていたそうですが、続けていくうちにスタッフの表情や言葉に変化が表れたといいます。
面談では次の3ステップを意識しています。

①承認する:まずは何を言われても受け止める
②傾聴する:途中で遮らず、最後まで聴く
③フィードバックする:次の行動につなげる


特にフィードバックは 「弱点を指摘する場」 ではなく、 「強みを伸ばす場」 として設計するのがポイントです。このクリニックではさらに、以下の3項目を軸に面談を行っています。

・Keep to do:うまくいっている取り組みを確認し、継続する
・Start doing:さらに良くするために新たに始めることを話し合う
・Stop to do:やめたほうがいい習慣や行動を共有する

こうした面談を3年間続けた結果、1年以内に辞めるスタッフの割合が50%から10%にまで低下しました。スタッフの “目に映る院長” が変わると、スタッフ自身の行動も変わります。人は 「言われた通り」 ではなく、 「感じた通り」 に動くのです。

まとめ:スタッフが辞めないクリニックは 「対話」 をあきらめない

スタッフが辞める理由の多くは 「給与」 や 「業務量」 よりも、 「もうここでは成長できない」 「話を聞いてもらえない」 という感情面にあります。だからこそ院長が意識すべきは、日常の中に “対話の場” を仕組みとしてつくることです。
怖さよりも安心感を、命令よりも傾聴を、評価よりも承認を重ねる。この3つを続けるだけでも、職場の空気は確実に変わります。退職を “防ぐ” のではなく、 「辞めたい」 と言い出せないほど成長できる、スタッフにとって辞めたくない職場をつくることを目指し、院長のマネジメント力アップにチャレンジしていただきたいと思います。


【2025年12月1日号 Vol.15 メディカル・マネジメント】